六脚亜門(Hexapoda)は文字どおり「6本の脚」を持つ節足動物のグループを指す名称で、広義には節足動物の中で最大級のクレードとされます。伝統的には主に昆虫(Insecta)を中心に、翅を持たない小さな節足動物群が合わせて含まれてきました。代表的な小群としては、Collembola(springtails、トビムシ類)、Protura(proturans、プロトゥーラ)、およびDiplura(diplurans、ディプルラ)があります。

形態的特徴

  • 脚の数:胸部に3対(計6本)の脚があることが六脚の基本的な特徴で、名称の由来にもなっています。他の多くの節足動物は3対より多い脚を持ちます。
  • 翅の有無:昆虫の多くは翅を持ちますが、Collembola、Protura、Dipluraなどの小群は翅を持たず、体長は数ミリ程度の小型のものが多いです。
  • 口器の位置:これら小群の一部(Collembola、Protura、Diplura)は口器が体内に位置する「内顎(エントグナータ)」的な特徴を示し、これが分類学上の重要な区分の一つとなっています(後述)。
  • 生活様式:ほとんどが土壌、腐葉土、苔の中、倒木下などの隠れた場所で暮らし、分解者として重要な役割を果たします。

各小群の簡単な説明

  • Collembola(トビムシ類):尾に跳躍器(furcula)を持ち、小型で跳ねるように移動する種が多い。湿った土壌や落葉層に広く分布し、微細な有機物や菌類を摂食します。
  • Protura(プロトゥーラ):眼や触角が退化または欠如していることが多く、感覚のために前肢を使う種がいる。非常に小さく、土壌中で生活します。
  • Diplura(ディプルラ):腹端に一対または二叉状の尾毛(cerci)を持ち、夜行性で土壌や落葉層に生息します。捕食性の種もいます。

系統関係と分類上の議論

六脚類の内部関係および六脚自体の単系統性(monophyly)については長年議論があり、近年の分子系統学的研究により理解が進んでいますが、完全に決着しているわけではありません。従来、Collembola、Protura、Dipluraはまとめてエントグナータ(内顎類)と呼ばれることがあり、これは口器が体内に引っ込む形質に基づいた分類です。しかし分子データは必ずしもこのグループを単系統として支持しておらず、これらの小群が互いに独立して進化した(=多系統的である)可能性が示唆されることがあるため、分類の扱いは流動的です。

一部の研究や分類案では、六脚をそのまままとまった亜門(Hexapoda)として扱う一方で、より保守的・あるいは別の系統仮説を反映して、昆虫類(Insecta)を亜門レベルに昇格し、残りの小群を分類学上不確定な位置、すなわちincertae sedisとして扱う提案もなされています。ここでのincertae sedisラテン語で「配置が不確かな」という意味で、あるグループの広範な系統的位置が明確でない場合に用いられます。

まとめと現在の見解

簡潔に言えば、六脚亜門は「胸部に3対の脚を持つ節足動物」を包含する伝統的な概念であり、昆虫類と、翅を持たない小さな群(Collembola、Protura、Diplura)を含むと説明されます。ただし、これらの小群の互いの関係や昆虫との関係は完全には解明されておらず、分子系統学の結果次第で分類体系が変わる可能性があります。現代の多くの教科書やレビューでは、六脚(Hexapoda)を便宜的なまとまりとして用いつつ、エントグナータ諸群の多系統性や昆虫(Insecta)の独立性については注記が付されることが一般的です。