子午線弧とは?測地学の定義・歴史とエラトステネスから衛星測地まで

定義 — 子午線弧とは

測地学でいう子午線弧とは、同じ経度を持つ二点間を結ぶ経路、すなわち地球上の子午線に沿った距離のことです。幾何学的にはこれは円弧あるいは曲線のセグメントと見なせます。地球儀上に架けられた架空のロープの長さを測れば、その長さが子午線弧になります。

測地学における役割と基準楕円体

複数の子午線弧を異なる経度・緯度で測ることにより、実際の海面を表すジオイドに最も近い数学的な近似である基準楕円体のパラメータ(長半径や扁平率など)を決定します。こうした作業は「地球の形の決定」と呼ばれ、地図作成、測量、航法、衛星測地(例:WGS84)などの基礎となります。古くは単一の子午線弧から地球の大きさを推定しましたが、現在は天体測地学的な測定や衛星測地学的な方法を組み合わせて、より正確な基準楕円体を求めています。

子午線弧の測定と理論(簡潔な数学的説明)

子午線弧長は、指定した緯度範囲の経線に沿った距離で、数学的には緯度φについての積分で表されます。楕円体(長半径 a、離心率 e)上の子午線曲率半径 M(φ) を用いると、二点間の子午線弧長 S は次の形で与えられます(概念式):

S = ∫φ1φ2 M(φ) dφ, ここで M(φ) は a(1−e²)/(1−e² sin²φ)^(3/2) のように表されます。

このため、局所での1度あたりの子午線長は緯度によってわずかに変化し、緯度が高くなるほど1度の長さはわずかに大きくなります(扁平率の影響)。

歴史的経緯

紀元前240年頃、アレクサンドリアの科学者エラトステネスは、現存するもっとも有名な子午線弧を利用した地球周長の推定を行いました。彼は、夏至の正午に古代エジプトの都市シエネ(アスワン)で太陽が天頂を通過することを知り、同じ時刻に故郷アレクサンドリアでの天頂からの角度を観測して、その差が全周の1/50(7.2°)であると判断しました。さらに両都市間の距離を測ることで、地球の円周がその50倍であると結論づけ、結果として現在の値に近い地球周長を得ました(使用した「スタディオン」の長さにより数値には議論があります)。

近代になってからは、地球が完全な球体でないことが問題となりました。1687年、ニュートンは『プリンキピア』で理論的に地球は自転による遠心力のために扁平な楕円球体であると示し、扁平率が約1/230であると推定しました。これに対して、18世紀には実測による検証が行われ、測地学的遠征(例えばムーペルティウスのラップランド遠征など)で子午線弧を測り、地球が赤道で膨らみ極で扁平であることが確かめられました。

19世紀にはヨーロッパからアジアにかけての長大な子午線弧(例:ストルーヴ測地弧など)が測定され、これらの成果は国家間の測量基準の整備や地図精度向上に貢献しました。フランスではデルンブルとメシャンによる子午線弧測量がメートルの定義に関わりました。

子午線弧測量の方法論(歴史→現代)

  • 古典的手法:天文観測(太陽・星の高度差)と地上距離測量を組み合わせて角度差と実際の地上距離を求め、そこから地球の曲率を推定する。
  • トラバース測量・三角測量:長距離を複数の三角網に分割して精密に距離を間接的に測定し、経緯度差と対応させる。
  • 現代的手法:衛星測位(GPS/GNSS)、衛星レーザー測距(SLR)、VLBI(電波干渉計)などを用いて、直接的かつ高精度に地球サイズや形状パラメータを推定する。

現代の衛星測地と応用

現在では、衛星測地学的な手法が主役です。GPSやその他のGNSSにより、地球表面の点の三次元座標をセンチメートルからミリメートル精度で求めることが可能になり、地球楕円体(例:WGS84)や地殻変動の把握、気候変動に伴う海面変化の観測(GRACEなど)に活用されています。

一方で、実際の海面を理想化した表面であるジオイドは重力場の等位面であり、地形や密度分布によって局所的に起伏します。基準楕円体は単純化された数学モデルなので、地形や重力の補正(ジオイド高の導入)が必要です。複数の子午線弧や衛星データを組み合わせることで、これらの補正や最適な楕円体パラメータの決定が行われます。

実務上の意義

子午線弧に関する知見は、次のような実務に直接結びつきます。

  • 国土測量・地図作成:正確な基準楕円体と座標系の設定
  • ナビゲーション:緯度経度を基にした正確な位置情報
  • 地殻変動の監視:地震やプレート運動の解析
  • 海面上昇や重力変動の解析:気候変動研究

まとめ

子午線弧は一見単純に思える「同じ経度の二点間の距離」ですが、その測定と解析は地球の形状や内部構造、重力場、さらには時空間で変化する地球システムを理解するための重要な鍵です。古代のエラトステネスからニュートンの理論、そして現代の衛星測地学に至るまで、子午線弧の測定は測地学の中心的課題であり続けています。

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質問と回答

Q:子午線アーチとは何ですか?


A:子午線アークは、同じ子午線上にある2点間の距離です。また、地球を横切る架空のロープを引いたときにできる円弧や円弧の分節のことでもある。

Q:基準楕円体はどのように決まるのですか?


A: 基準楕円体は、異なる場所で子午線弧を2回以上測定し、その測定値を用いてジオイドの形状に最も近い基準楕円体の形状を求めることで決定されます。この作業を「地球の形を決める」と言います。

Q:エラトステネス(Eratosthenes)とは誰で、何をした人ですか?


A:エラトステネス(Eratosthenes)は、紀元前240年頃に生きたアレクサンドリアの科学者です。彼は、夏至の現地正午に古代エジプトのシエネ(アスワン)で太陽が天頂を通過することを知り、地球の円周を計算し、良い値を算出した。そして、故郷のアレキサンドリアを測定したところ、そこでの天頂までの距離は円の長さの50分の1(7.2°)であることがわかったのだ。アレキサンドリアがシエネの北にあると仮定すると、その間の距離は地球の円周の50分の1でなければならないと結論づけたのである。

Q. 地球が球体であることを証明したニュートンは、いつ発表したのでしょうか?


A:1687年、ニュートンは『プリンキピア』の中で、地球が1/230の平らな球体であることを証明することを発表しました。

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