nomen dubium(疑わしい名前)とは — 分類学の定義とネオタイプによる解決
nomen dubium(疑わしい名前)の意味と原因、化石や断片標本で生じる問題点、ネオタイプによる解決策まで分類学の名称安定性を解説。
nomen dubiumとは、ラテン語で「疑わしい名前」(複数形のnomina dubia)を意味します。動物学の学名で、使用目的が不明または疑わしいものを指す。
nomen dubiumでは、ある標本がそのグループに属しているかどうかを判断できない場合があります。これは、オリジナルのタイプ標本が紛失または破壊された場合に起こりうる。動物学や植物学のコードでは、このような場合、新しいタイプ標本(ネオタイプ)を選ぶことができる。
また、名前を持つタイプが断片的であったり、重要な診断上の特徴を欠いていたりする場合、その名前はnomen dubiumとみなされることがある。これは化石としてしか知られていない種によく見られるケースである。名前の安定性を保つため、国際動物命名規約では、このような場合、新しいタイプの標本(ネオタイプ)を選ぶことを認めている。
生物学的な分類法で使われる数多くの用語の一つです。
定義と問題点
nomen dubiumは、学名がどの生物個体や群に確実に適用されるかを判断できないために、その使用が疑わしい(不確定な)名前を指します。問題の中心は「タイプ標本(name-bearing type)」にあり、タイプ標本が欠損・破壊・記載不十分であると、同定や比較ができず、その名前の適用範囲が不明瞭になります。
なぜ起こるか
- タイプ標本の紛失や破壊(火災、戦争、管理不備など)。
- 初期記載が簡潔すぎて診断に必要な特徴が記載されていない場合。
- タイプ標本が断片的(例えば単一の歯や骨片)で、近縁種と区別できない場合。化石種に多い問題です。
- 発達段階(幼体)や個体内変異のために外見が異なり、種の境界が不明確な場合。
解決手段:ネオタイプとその他の対処
分類学では名前の安定性を重視するため、いくつかの手続きでnomen dubiumの問題を解消しようとします。主な対処法は以下のとおりです。
- ネオタイプ(neotype)の指定:オリジナルのタイプ標本が存在しないか不十分な場合に、新たに学名に紐づく標本を指定します。国際動物命名規約(ICZN)では、ネオタイプの指定には正当な理由(学名の安定化が必要であること)、既存資料の徹底的な探索の記録、ネオタイプの由来や保管場所の明示など厳格な要件が課せられています(例:ICZN Article 75)。
- レクトタイプ(lectotype)の選定:元の記載で複数の標本(シントイプ)が用いられていた場合、その中から一つを後にタイプとして選ぶ手続き。オリジナル物が残っている場合に用いられます。
- エピタイプ(epitype)の指定:オリジナルのタイプ標本は存在するが、その標本だけでは現代の診断に十分でない場合に、補助的に選ばれる参照標本。
- 再検討・慎重な記載の改訂:既知標本の詳細な形態解析、系統解析、分子データの採取(可能な場合)によって、名前の適用範囲を明確にすることも重要です。
ネオタイプ指定の実務的ポイント
- ネオタイプ指定は恣意的に行って良いものではなく、命名規約の手順に従い公開された学術論文で行う必要があります。
- 可能な限りオリジナルの産地や地層に由来する標本を選ぶことが望ましい(同一地域・同一地層の標本であることが安定性に寄与するため)。
- ネオタイプには識別写真・詳細な記載・保管館情報を添えることが求められます。
- 動物名(ICZN)と植物名(国際植物命名規約・ICN)では細則が異なるため、それぞれのコードに従う必要があります。
実務上の影響
nomen dubiumの存在は分類学的混乱を招くだけでなく、保全、生物多様性評価、化石記録の解釈、法的・政策的なリスト作成(絶滅危惧種の指定など)にも影響を与えます。適切なタイプの確立や安定した同定基準の設定は、学術的な再現性と行政的な運用の両方で重要です。
注意点とまとめ
名称の安定化は分類学の重要な目的であり、nomen dubiumに対しては慎重かつ透明な手続きで対応することが求められます。ネオタイプやエピタイプの指定は問題解決に有効ですが、それ自体が新たな議論を生む場合もあるため、十分な根拠と公開議論が伴うべきです。
以上は、nomen dubiumの概念、発生原因、解決手段、および実務的な留意点についての概要です。分類学の詳細手続きは、該当する命名規約(ICZN、ICN など)の最新版を参照してください。
質問と回答
Q: ノメン・デュビウム(nomen dubium)とは何ですか?
A: nomen dubiumとは、動物学の学名で、用途が不明または疑わしいものを指します。
Q: nomen dubiumの複数形は何ですか?
A: nomen dubiumの複数形は、nomina dubiaです。
Q: なぜ、ある標本がノーメン・デュビウムを持つグループに属するかどうかを判断できないのですか?
A:原型となる標本が失われている場合、その標本がnomen dubiumのグループに属するかどうかを判断できないことがあります。
Q: ノメン・デュビウムの原型標本が失われた場合、どうしたらよいですか?
A: ノメン・デュビウムの原型標本が失われた場合、新しい原型標本(ネオタイプ)を選択することが可能です。
Q:どのような場合にノーメン・デュビウムとみなされるのですか?
A: 名称を持つ型が断片的であったり、診断上重要な特徴を欠いている場合、その名称はノーメン・デュビウムと見なされます。
Q:国際動物命名規約とは何ですか?
A:国際動物命名規約は、動物学における動物の命名に関する規則とガイドラインのセットです。
Q:ノーメン・デュビウムに新しいタイプ標本やネオタイプを選ぶことを許可する目的は何ですか?
A: 国際動物命名規約では、名前の安定性を保つために、ノーメン・デュビウムに新しいタイプ標本やネオタイプを選択することを認めています。
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