海洋熱エネルギー変換(OTEC)とは:発電の仕組み・利点・課題
海洋熱エネルギー変換(OTEC)は、世界の海から有用なエネルギーを得る方法です。世界の海は太陽が照りつけていて、沿岸の暖かい地域では海面の水はかなり暖かく、時には30℃にもなることがあります。一方、多くの海域は非常に深く、水深1,000メートル付近の水温は約5℃前後にまで下がります。この表層と深層の間にある温度差を利用して、発電などに使える仕事を取り出すのがOTECの基本的な考え方です。
OTECの仕組み(概要)
OTECは温度差が比較的小さい「低品位熱」から仕事を取り出す熱機関の一種です。暖かい表層水と冷たい深層水を取り込み、その温度差を利用して蒸発・凝縮などのサイクルを回し、タービンを回して電力を得ます。これを行う装置を一般に海洋熱エネルギー変換(Ocean Thermal Energy Conversion)の略で「OTECマシン」と呼びます。
代表的な方式
- 閉回路方式(Closed-cycle):低沸点の作動流体(例:アンモニア)を用い、暖かい表層水で作動流体を蒸発させてタービンを回し、冷たい深層水で凝縮させて再循環させます。大量の海水を循環させる必要がありますが、作動流体は海水と直接接触しません。
- 開回路方式(Open-cycle):暖かい海水を真空下で蒸発させ、その蒸気でタービンや低圧の発電機を直接駆動します。蒸発後に残った冷たい淡水を取り出して淡水化に利用できます。
- ハイブリッド方式:閉回路と開回路の利点を組み合わせ、発電効率や副産物(淡水)生産の最適化を図ります。
必要な設備と運用上のポイント
- 深層の冷水を取り上げるための長い冷水パイプ(Cold Water Pipe, CWP)や、表層水・深層水を扱う熱交換器・タービン等の海上プラットフォームが必要です。
- 温度差が小さいため、効率は低めであり、大量の温水と冷水の流量を確保することが発電の鍵になります。
- 設置形態は陸上設置型、近海の固定プラットフォーム型、浮体式(FPU)などがあり、立地条件によって選択されます。
利点(メリット)
- 安定したベースロード電源:太陽光や風力と異なり、潮流や季節変動を除けば24時間連続して発電可能です。
- 多目的利用が可能:副産物としての冷水は冷房や水産養殖(栽培漁業)の促進に使え、開回路やハイブリッド方式では淡水(飲料水)を得ることもできます。
- 広いポテンシャル:海洋全体で利用可能な熱量は大きく、波力の数十〜数百倍に相当すると見積もられるなど、長期的な再生可能エネルギー源となり得ます(小規模地域では実用的効果が高い)。
課題とリスク
- 経済性:発電効率が低く、初期投資(プラットフォーム、長大なCWP、熱交換器など)が大きいことから、経済的に採算が取れる規模は大きく、コスト削減と大規模化が必要です。
- 環境影響:冷水の大量放出や深層水の上昇による栄養塩の変動、海洋生態系への影響、取水による生物の巻き込み(エントレインメント)や付着(バイオファウリング)などを評価・対策する必要があります。
- 技術的課題:長大な延伸管の耐久性、浮体・係留技術、海水中の腐食や生物付着対策、メンテナンス性の確保が重要です。
- 立地制約:有効な温度差(概ね20℃未満でも可だが、差が大きいほど有利)が常時確保できる熱帯〜亜熱帯海域が適地であり、深さや海底地形も影響します。
実例・歴史・現状
最初のOTEC試験装置は1930年にキューバで建設され、22kWの電力を発生させた実績があります。これまでに建造された最大級の実証規模としては1999年に250kWを発電した米国の装置があります。現在は実用化に向けて10MW程度の大型機の計画や、浮体式プラットフォームを用いたプロジェクトの検討が進められています。
応用例(発電以外の利用)
- 冷水供給:深層冷水を利用した海水冷房(海水を利用した都市冷房)や冷蔵、漁業・養殖業での水温管理に活用できます。
- 淡水化:開回路やハイブリッド方式では淡水を副産物として得ることができ、中小規模の島嶼地域で飲料水不足を解消する用途に適しています。
- 養殖・農業支援:適温管理により高付加価値の水産物や温室栽培の生産性を高めることができます。
- 海洋資源の利用:深層水に含まれる栄養塩を利用したバイオプロダクト生産など、多角的な経済効果が期待されます。
環境配慮と対策
海洋環境への影響を最小限にするため、取水・放水の拡散設計、ヌメリや付着生物対策、放出水の温度・栄養塩濃度管理、漁業・生態系モニタリングが重要です。適切な環境影響評価(EIA)と長期的なモニタリング計画を伴うことが前提となります。
将来展望
OTECは技術的に実現可能で、多用途利用による経済性向上の余地があります。特に遠隔島嶼部での電力・淡水・養殖の結合プロジェクトや、浮体式の大型設備によるスケールメリット、既存エネルギー政策との組合せ(カーボン削減目標への貢献)により、今後の展開が期待されます。ただし、コスト低減、長期耐久性の確保、環境影響の継続的な評価と対応が実用化を左右する重要課題です。
まとめると、OTECは海という大きな熱源を用いた再生可能エネルギーの一つであり、発電だけでなく冷却・淡水生産・養殖など多彩な副産物を持つ技術です。現時点では技術・経済・環境の各面で課題を抱えますが、適切な立地と複合利用を組み合わせれば有望な地域エネルギー源となり得ます。
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海洋熱エネルギー変換は、海洋深層部の冷水を利用して電気を作ったり、食料を育てたりしています。
質問と回答
Q:海洋温度差発電(OTEC)とは何ですか?
A: 暖かい表層水と冷たい深層水の温度差を利用して発電することで、世界の海から有用なエネルギーを得る方法のことです。
Q: 海の温度差はどうして生じるのですか?
A:世界中の海は、太陽に照らされ、表層付近の水は温められ、水深1,000m付近の水はもっと冷たくなっていることがあります。
Q: この温度差を利用して、どのように発電するのですか?
A:温水と冷水をパイプで地上に出し、その温度差を利用して熱機関が発電を行います。
Q: 暖かい表層水と冷たい深層水の温度差は大きいのでしょうか?
A:温度差は15℃程度ですが、有機EL発電機で発電することができます。
Q: 他の海洋エネルギー源と比較して、OTECのポテンシャルはどの程度ですか?
A:海洋エネルギーである波力発電と比較すると、10倍から100倍のエネルギーが得られると言われています。
Q: 発電以外のメリットは何ですか?
A: 冷たい水を大量に作ることができ、それを冷蔵したり、農作物や魚の成長に利用することができます。また、塩分を含まない水を大量に作ることができるので、中海の島々で飲料水として利用することもできます。
Q:有機EL発電の1号機はいつ作られ、どれくらいの電力を発電したのですか?
A:1930年にキューバで作られたのが最初で、22kWの電気を作りました。