デルフォイ(デルフィ)神託とは:アポロ神殿の巫女ピシアと曖昧な予言
デルフォイ神託の謎を解き明かす:アポロ神殿の巫女ピシアの曖昧な予言、起源と火山ガス説を分かりやすく解説。
デルフィの神託は、古代ギリシャでアポロ神に捧げられた機関である。デルフィは宗教的・政治的に重要な聖地で、ギリシャ世界の多くの都市国家や個人が重大な決定を下す前にここへ助言を求めた。神託は単なる予言所ではなく、祭儀・政治・文化が交差する場でもあった。
ピシア──デルフィの巫女
ギリシャのパルナッソス山麓にあるデルフィにあるアポロ神殿では、常に一人の巫女だけが公式に神託を行った。彼女に与えられた通称は「ピシア」で、巫女に選ばれるともはや本名は用いられず、神殿に属する役職名として呼ばれた。選出基準や任期については時代や資料によって差があるが、多くの記録は地元の既婚女性や年配の女性が選ばれたことを示している。
儀礼と予言の方法
ピシアは神託を行う前に浄めの儀式を受け、月桂樹(ローレル)を用いたり、聖なる泉で手足を洗ったりしたと伝えられる。伝統的な描写では、ピシアは三脚(トライポッド)に座り、神の霊感を受けて恍惚状態(エクスタシー)に入り、断片的でしばしば意味不明な言葉を発した。神殿の祭司や書記がその口調を整理・解釈して、訪問者に語りかける形で答えが伝えられた。
曖昧さとその理由
デルフィの予言は曖昧なことで知られる。これは儀礼的な性格のため、また解釈の余地を残すことで神託の責任を曖昧にするためだと考えられている。歴史上の有名な例として、リディア王クロイソスが神託に従ってハリス川(ハリス川=ハリス=ハリス?)を越えたところ「大きな帝国を滅ぼす」と告げられたが、結果として滅ぼされたのは自分の帝国であった、という故事がある。こうした言い回しは、どのように解釈するかで意味が大きく変わる。
自然現象と「恍惚」の説明
ピシアの奇妙な発言については、古代から様々な説明がなされてきたが、近現代の学者たちは地質学的・化学的要因を指摘してきた。プルタルコスなど古代の文献にも泉や地中からの蒸気に関する記述があり、20世紀末から21世紀にかけて行われた研究では、デルフィ周辺の断層や地下水脈による炭化水素ガス(エタンやエチレンなど)の噴出が恍惚状態を引き起こした可能性が示唆された。
一方でこの説には反論もある。現場の地質調査やガスの存在量の不確実さ、古代記録の解釈の難しさなどから、ガス説だけで全てを説明することは難しいとする見解もある。要するに、自然現象と宗教的体験・儀礼的演出が複合的に作用した結果であると考えるのが現代の妥当な立場だ。
その他の要因と社会的役割
神託は宗教的な力を背景に、政治や外交でも大きな影響力を持った。都市国家は神託を用いて戦争や条約、植民事業の正当化を図り、神託の曖昧さは政治的な「保険」としても機能した。また、神殿には寄進や奉納が集まり、文化的なセンターとしても発展した。
衰退と遺跡
ローマ帝政期以降、キリスト教の台頭とともに古代ギリシャの多くの異教儀礼は圧迫され、4世紀末から5世紀にかけてデルフィの神託も次第に廃れていった。最終的には皇帝の命令や宗教政策によって公式に閉鎖されたとされる。現在、デルフィの遺跡にはアポロ神殿の礎石やトレジャリ(奉納庫)、劇場、スタディオンなどが残り、考古学的調査によってその歴史と機能が詳しく明らかになっている。
まとめ
- デルフィの神託は、古代ギリシャ世界で宗教的・政治的に重要な役割を果たした。
- 巫女ピシアは神殿で一人だけ公式に神託を行い、答えはしばしば曖昧で、祭司によって解釈された。
- 予言の背後には儀礼・社会的要因に加え、地下ガスなどの自然現象が関与した可能性が議論されている。
- 4世紀末から5世紀にかけてキリスト教化の波の中で衰退し、現在は重要な考古遺跡として保存・研究されている。
なお、ピシアやデルフィに関する記述には古代史料(プルタルコス『ピュティアの神託について』など)と、近現代の地質学・考古学的研究があり、両者を照合することで理解を深めることができる。
リディアのクロイソス
紀元前560年、リディアの王クロイソスは、デルフィの神託とテーベの神託を選び、助言を求めた。彼はペルシャ人と戦争をすべきかどうかを尋ねた。両神託は同じ答えを出した。もしクロイソスがペルシャと戦争をすれば、強大な帝国を破壊することになるだろうと。さらに両神託は、ギリシャで最も強力な民族を探し出し、彼らと同盟を結ぶよう助言した。
クロイソスはデルフィに高い料金を支払い、神託を下して「彼の君主制は長く続くでしょうか」と尋ねた。ピシアは答えた。
"ラバがメデスの王となる時はいつでも逃げろ。" "堅忍不抜を旨とし、臆病を恥とするな。"
クロイソスは、ラバがメデスの王になることはあり得ないと考え、自分とその号が権力から離れることはないと信じていた。そのため、彼はギリシャのある都市国家と共通の目的を持ち、ペルシャを攻撃することにした。
しかし、敗北したのはペルシャ人ではなく彼だった。これは予言の成就ではあったが、彼の解釈とは異なっていた。どうやら彼は、勝者であるキュロスがメデ人とペルシャ人のハーフであることを忘れていたようで、そのためラバと見なされてしまった。
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