原形質連絡(プラズモデスマ)—植物細胞を貫く物質輸送と通信のチャネル
原形質連絡(プラズモデスマ)とは?植物細胞を貫く微細チャネルが物質輸送と細胞間通信を制御する仕組みと意義を解説。
プラズモデスマ(英語複数形は「plasmodesmata」)は、植物細胞の細胞壁を横切る微小なチャネルで、隣接する細胞間の物質輸送と情報伝達を可能にする構造である。これらのチャネルは細胞膜で被覆され、しばしば小胞体由来の管状構造であるデスモチューブを内包している。プラズモデスマは一部の藻類でも独自に進化した例が知られている。
動物細胞とは異なり、植物細胞はすべて多糖類の細胞壁で囲まれているため、隣り合う細胞は細胞壁によって隔てられている。細胞壁は低分子に対してある程度の透過性を持つが、細胞間の選択的・能動的な輸送と通信は主にプラズモデスマを介して行われる。
構造
典型的なプラズモデスマは次の要素を持つ:
- 細胞膜で被覆された管:隣接する細胞の細胞膜が連続して管状をなしている。
- デスモチューブ(desmotubule):小胞体(ER)由来の細長い円筒状構造がチャネルの中央を貫くことが多い。
- 細胞質袖(cytoplasmic sleeve):デスモチューブと周囲の細胞膜の間に存在する、実際に物質が通過する空間。
これらの寸法や構成要素は発達段階や組織によって多様であり、チャネル径や通過可能な分子の大きさは可変である。
形成とタイプ
プラズモデスマは主に二つの経路で形成される:
- 一次プラズモデスマ:細胞分裂(細胞板形成)と同時に生じ、姉妹細胞をつなぐ。
- 二次プラズモデスマ:既存の細胞壁を貫いて後から形成され、非姉妹細胞間にも形成される。
機能
プラズモデスマは以下の重要な役割を担う:
- イオンや代謝物、ホルモンなどの低分子の細胞間輸送。
- タンパク質やRNA(mRNAや小分子RNA)など比較的大きな分子の選択的な移動—これは発生や細胞分化、系統的なシグナル伝達に重要である。
- ウイルスなど病原体の細胞間拡散の経路となる(多くの植物ウイルスは運動タンパク質でプラズモデスマの通過性を改変する)。
- 組織レベルでのシンパラス(symplastic)輸送経路を形成し、光合成産物の配分や発根・分化のパターン形成に寄与する。
調節と可塑性
プラズモデスマの通過性は動的に調節される。代表的な制御機構には次がある:
- カルロース(callose、β-1,3-グルカン)の沈着・分解:カロースはプラズモデスマの入口で沈着して通路を狭める。カロース合成酵素とβ-1,3-グルカナーゼの活性で可逆的に調節される。
- プラズモデスマ局在タンパク質(PDLPなど)や膜関連因子による物理的・機能的調整。
- 外界刺激(病原体、傷害、光・温度ストレス)や発生シグナルに応じた可塑的応答。
動物の類似構造と細胞内連絡
プラズモデスマは動物のギャップジャンクションに機能的に類似しているが、構造や成り立ちは異なる。さらに、単一細胞内でのオルガネラ間連絡としては、植物細胞内でプラスチドの間にストロミュールが形成されることがあり、これは同一細胞内のプラスチド間通信を助けるもので、プラズモデスマとは異なる現象である。
観察・解析法と応用
プラズモデスマの研究には電子顕微鏡観察、蛍光トレーサーを用いた分子移動のライブイメージング、遺伝学的・分子生物学的手法(遺伝子破壊・過剰発現による機能解析)などが用いられる。植物ウイルスの移動機構や細胞間シグナル伝達の理解は、作物の病害抵抗性改良や発生制御の応用へつながる可能性がある。
まとめると、プラズモデスマは植物の細胞間ネットワークを作る不可欠なチャネルであり、物質輸送、情報伝達、発生制御、病原体応答など多面的な役割を持つ。構造的・機能的に高度に制御されており、植物生理学・細胞生物学の重要な研究対象である。

プラスモデズマによって、植物細胞間の分子の移動が可能になる。

一次形質膜の構造。CW=細胞壁 CA=カロース PM=細胞膜 ER=小胞体 DM=脱重合体 赤丸=アクチン 紫丸とスポーク=その他未同定タンパク質。
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