ストロミューレ(ストロマ充填管/ストロミュール)とは:定義・構造・機能・分布

ストロミューレ(ストロマ充填管)の定義・構造・機能・分布を図解と最新研究で徹底解説。発見史や被子植物での役割までひと目で分かる必読ガイド

著者: Leandro Alegsa

ストロミューレとは、植物細胞内に存在する微小な構造体のことである。ストロミューレ(ストロマ充填管)は、葉緑体を含むすべてのプラスチッドの表面から伸びる非常に動的な構造体であり、プラスチッドの内部液(ストロマ)と連続した細長い管状の突起である。直径は数百ナノメートル程度と非常に細く、長さは数マイクロメートルから場合によっては数十マイクロメートルに達することがある。生体内では伸長・収縮・曲折を繰り返し、細胞内の別のオルガネラや細胞膜に接触することが観察されている。

歴史的背景と発見

プラスティドからの突起やプラスティド間の相互接続は1888年と1908年に観察記録があり、以後も断続的に報告があったが、蛍光タンパク質を用いた生細胞イメージング技術の発展により1997年ごろにあらためて詳細に記録され「再発見」された。これ以降、多くの顕微鏡的解析や遺伝学的・細胞生物学的研究が行われ、構造と動態の理解が進んだ。

構造と形成メカニズム

  • 基本構造:ストロミューレはプラスチッドの二重膜(内膜・外膜)に連続した外膜に囲まれ、その内部はストロマで満たされている。膜とストロマが連続しているため、物理的には本体プラスチッドの延長である。
  • サイズと可塑性:非常に細い管状で、直径はおおむね0.1–0.5 µm程度、長さは可変(数µm〜数十µm)。光やストレス、細胞種によって頻度や形態が大きく変化する。
  • 形成の制御:アクチン細胞骨格とミオシンなどのモータータンパク質がストロミューレの伸縮や移動に関与することが示されている。微小管よりもアクチン依存性の駆動が主要であるという報告が多い。また、プラスチッド外膜タンパク質や膜の張力、細胞内の代謝状態も形成に影響する。

機能(考えられている役割)

ストロミューレの生理的役割は完全には解明されていないが、以下のような機能仮説が提唱され、いくつかは実験的に支持されている:

  • 表面積の増加:ストロミューレはプラスチッドの表面積を増やし、代謝物や膜タンパク質のやり取りを効率化する可能性がある。
  • オルガネラ間の接触とシグナル伝達:ミトコンドリアや小胞体、核などと接触しやすくすることで、代謝物の局所移送やレトログレードシグナル(プラスチッドから核への情報伝達)に関与すると考えられている。病害応答時に核の周囲へ伸びる現象が観察され、免疫関連のシグナル伝達への寄与が示唆される。
  • タンパク質・RNAの局在化あるいは輸送:ストロミューレを介して大きな複合体や分子が局所的に移動する可能性が報告されているが、これを巡る機構はまだ議論が続いている。
  • ストレス応答:酸化ストレス、乾燥、病原体感染などのストレス条件でストロミューレ形成が誘導されることが多く、ストレス応答に関連する役割があると考えられる。

分布と発現パターン

ストロミューレは被子植物を中心に広く観察されるが、その頻度は種や組織、発達段階、環境条件によって大きく異なる。例えば、

  • シロイヌナズナコムギイネトマトなど、被子植物の多くの種で観察されている。
  • 葉緑体(光合成組織)以外の非葉緑プラスチッド(色素体、アミロプラスト、プロプラストなど)でより頻繁に見られることが多い。
  • 上皮細胞、根細胞、細胞培養系(懸濁細胞)や若い組織など、プラスチッドの占有率が高い細胞で頻度が高い傾向がある。
  • 暗所や低光量、糖不足、ホルモン処理(例:サリチル酸やアブシジン酸)や酸化ストレスなどの条件でストロミューレ形成が増加する報告がある。

観察法と研究の現状

  • 可視化技術:ストロミューレは通常、ストロマに局在する蛍光タンパク質(例:GFPにプラスチッド輸送配列を付加したもの)により生細胞で可視化される。電子顕微鏡でも形態が確認されているが、動的な性質の解析には生細胞イメージングが不可欠である。
  • 遺伝的・薬理学的解析:アクチン重合阻害薬やミオシン遺伝子の変異体を用いた実験により、細胞骨格依存性の動態制御が示されている。遺伝子改変によりストロミューレ形成が増減し、それに伴う生理学的効果が解析されつつある。
  • 未解決の課題:ストロミューレが実際にどの程度まで物質輸送に貢献しているか、また細胞全体の生理に対する定量的な寄与はまだ明確ではない。多くの観察は相関的であり、因果関係を示すためのさらなる実験が求められている。

まとめると、ストロミューレはプラスチッド表面から伸びるストロマで満たされた細長い突起であり、細胞内のシグナル伝達やオルガネラ間相互作用、ストレス応答などに関与していると考えられているが、詳細な役割や分子機構については現在も活発に研究が進められている。



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