素数定理とは — 素数分布とπ(n)≈n/ln(n)の意味・証明・歴史
素数定理とは何かを図解でわかりやすく解説:素数分布、π(n)≈n/ln(n)の意味・証明・歴史を詳述。
素数の定理とは、数論の定理の一つで、自然数全体における素数の分布が大きな数になるにつれてどのように薄くなるかを定量的に述べたものです。ここで素数の個数を数える関数をπ(x)(x以下の素数の個数)とすると、素数定理は次のように表されます。
定式化と意味
素数定理: x → ∞ のとき、
π(x) ∼ x / ln x
という関係が成り立ちます。ここで記号「∼」は漸近的等価を表し、
lim_{x→∞} π(x) / (x / ln x) = 1
を意味します。言い換えれば、x 以下の整数を一様に選んだときにそれが素数である確率は約 1 / ln x になります(π(x)/x ≈ 1/ln x)。したがって、最初のN個の整数のうち連続する素数の平均的な間隔はおよそ ln(N) というわけです。
直観的な説明(ヒューリスティック)
- ある大きな整数 m が素数である「確率」を考えると、m が素数であるためには 2,3,5,... といった小さな素数で割り切られない必要があります。p で割り切られない確率は 1 − 1/p であり、独立とみなすと積 Π_{p ≤ √m} (1 − 1/p) のようになります。
- メルテンスの定理的な挙動からその積は定数倍で 1 / ln m に近づくため、素数である確率はおよそ 1 / ln m になる、という直観が得られます(これは厳密な証明ではなくヒューリスティックです)。
より良い近似 — 対数積分 Li(x)
実際には π(x) の近似としては対数積分
Li(x) = ∫_2^x dt / ln t
の方が x/ln x より精度が良く、数値的にも一致します。例:
- π(1000) = 168、1000/ln 1000 ≈ 144.8、Li(1000) ≈ 177.6
- π(10^6) = 78,498、10^6/ln 10^6 ≈ 72,382、Li(10^6) ≈ 78,627
したがって x/ln x は概念的に簡明ですが、実用的には Li(x) の方が良い近似を与えます。
証明の概要と歴史
- 1792–1793 年頃、若き日のカール・フリードリヒ・ガウス(当時約15歳)は素数分布と対数の間に関係があることを観察し、経験的に π(x) を近似する式を考えていました。文章にはカール・フリードリヒ・ガウスの名が挙げられます。
- 1798 年、アドリアン・マリー・レジェンドル(対数との関係を提案)も類似の近似を示唆しました。
- 19世紀中頃、チェビシェフ(P. L. Chebyshev)は x に対して π(x) がある定数倍の範囲にあることを示し、素数が極端に少ない/多いことを排除する重要な不等式を得ました。
- 1859 年、ベルンハルト・リーマンは ζ(s)(リーマンゼータ関数)を導入し、その零点が素数分布に与える影響を示す「リーマンのメモワール」を発表しました。そこには素数計数関数と ζ の零点を結ぶ「明示公式」が示されています。
- しかしながら素数定理の完全な証明が与えられたのは 1896 年で、ジャック・ハダマールとシャルル=ジャン・ド・ラ・ヴァレ・プッサンが独立に証明しました。彼らの証明は複素解析を用い、リーマンゼータ関数が実部 = 1 の直線上で零点を持たないこと(ζ(s) ≠ 0 for Re(s) = 1)を示すことに基づいています。
- 1948–1949 年には、パウル・エルデーシュとセルゲイ・セルベリらが複素解析を使わない「初等的」な(ゼータ関数の深い性質を使わない)証明を与え、研究の視点を広げました(「初等的」とは言ってもかなり巧妙で高度な素朴な解析を含みます)。
数学的背景(重要な道具)
- リーマンゼータ関数 ζ(s) とその積表示(オイラー積) ζ(s) = Π_p (1 − p^{-s})^{-1}(Re(s) > 1)は素数の性質を複素解析の言葉で表す基本的な道具です。
- チェビシェフ関数 θ(x) = Σ_{p ≤ x} ln p および ψ(x) = Σ_{p^k ≤ x} ln p は解析的に扱いやすく、ψ(x) ∼ x や θ(x) ∼ x といった形を示すことが素数定理の別表現になります。実際、ψ(x) ∼ x は π(x) ∼ x/ln x と同値です。
- 証明の核心は ζ(s) の性質(特に s = 1 の近傍での振る舞い)とその零点の情報にあります。ハダマールとラ・ヴァレ=プッサンはζ(s)が実部1上に零点を持たないことを示すことで素数定理を導きました。
誤差項とリーマン予想の関係
素数定理は主項の形を与えますが、π(x) − Li(x) や π(x) − x/ln x の大きさ(誤差項)に関する研究が極めて重要です。現代の結果では、例えば
π(x) = Li(x) + O(x exp(−c (ln x)^{3/5} (ln ln x)^{−1/5}))
のような非常に改良された評価が知られています(c は正の定数)。一方でリーマン予想が真であれば、誤差項はさらに小さくなり、具体的には
π(x) = Li(x) + O(√x ln x)
のような強い評価が得られます。したがって、素数分布の微細構造はリーマンゼータ関数の零点の分布と深く結びついています。
具体例(桁数による考え方)
元の説明にならって桁数の例を挙げると、10^1000(1000桁)までの正の整数のうち素数である割合はおよそ 1 / ln(10^1000) = 1 / (1000 ln 10) ≈ 1/2302.6、つまり約 2300 分の 1 程度です。10^2000(2000桁)では割合が約 1/4605.2 と半分近くになります。これは「同じくらい大きさの数が増えると素数はそれだけ希になる」ことを直感的に示しています。
まとめ
- 素数定理は、素数が大きな数の中でどのように分布するかを定量的に示す基本定理であり、π(x) ∼ x/ln x(またはπ(x) ≈ Li(x))という形で表されます。
- その証明史は 19 世紀末の複素解析的手法(ハダマール、ラ・ヴァレ=プッサン)に始まり、20 世紀中頃には初等的証明も与えられるなど、多様な視点から研究が進められてきました。
- さらに精密な解析はリーマンゼータ関数の零点に依存しており、リーマン予想が成り立てば素数分布の誤差項に関して非常に強い結論が得られます。
質問と回答
Q:素数定理とは何ですか?
A: 素数定理とは、素数がどのように数の範囲に分布しているかを説明する、数論の定理です。
Q:素数は数的範囲に均等に分布しているのですか?
A:いいえ、素数は数域に均等に分布しているわけではありません。
Q:素数定理は何を公式化したものですか?
A:素数定理は、「1からある数までの素数に当たる確率は、数が大きくなるにつれて小さくなる」という考えを定式化したものです。
Q: 1とある数の間にある素数に当たる確率は何ですか?
A: 1とある数の間の素数に当たる確率は約n/ln(n)、ln(n)は自然対数関数です。
Q: 2n桁の素数に当たる確率は、n桁の素数に当たる確率より大きいのですか?
A:いいえ、2n桁の素数に当たる確率は、n桁の素数に当たる確率の約半分となります。
Q:素数定理を証明したのは誰ですか?
A: ジャック・ハダマードとシャルル・ジャン・ド・ラ・ヴァレ・プッサンが、1793年にガウスが素数と対数の関連を疑ってから1世紀以上経った1896年に素数定理を証明しました。
Q: 最初のN個の整数のうち、連続する素数の間の平均的なずれは何でしょうか?
A: 最初のN個の整数のうち、連続する素数の間の平均ギャップはおよそln(N)です。
百科事典を検索する