レイモンド・チャンドラー(Raymond Chandler、1888年7月23日 - 1959年3月26日)は、アメリカの小説家、脚本家である。生誕地はシカゴに。若年期にイングランドで教育を受けた後にアメリカへ戻り、かつては石油関連の仕事に就いていたが、後に地位を失い、その後の経済的・職業的転機を経て探偵小説を書くようになった。現在では、ハードボイルド探偵小説を代表する作家の一人として広く評価されている。
作家としての出発
チャンドラーは1930年代初頭に短編執筆を始め、1933年には人気のパルプ雑誌『ブラック・マスク』に短編 "Blackmailers Don't Shoot" を発表して注目を集めた。その後も短編を多数発表しつつ、1939年に処女長篇小説としてビッグ・スリープ(The Big Sleep)を刊行し、私立探偵フィリップ・マーロウ(Philip Marlowe)を主人公とするシリーズを確立した。
主要作品
チャンドラーは生涯で短編多数に加え、長編小説をわずか7作発表した。代表的な作品は以下の通りで、いずれもフィリップ・マーロウを主人公とするものが多い。
- ビッグ・スリープ(The Big Sleep, 1939)
- さらば愛しき女よ(Farewell, My Lovely, 1940)
- 高い窓(The High Window, 1942)
- 湖の女(The Lady in the Lake, 1943)
- リトル・シスター(The Little Sister, 1949)
- 長いお別れ(The Long Goodbye, 1953)
- プレイバック(Playback, 1958)
作風と影響
チャンドラーの作風は、冷徹で現実的なハードボイルドの枠組みに、詩的で鮮烈な比喩やユーモア、倫理的な洞察を織り交ぜた点に特徴がある。主人公フィリップ・マーロウは、荒んだ街の裏側を見据えつつも独自の倫理観を貫く探偵像として描かれ、多くの読者と後続作家に影響を与えた。チャンドラーの描くロサンゼルスや犯罪世界のイメージは、ハードボイルド文学のみならずフィルム・ノワールやハリウッド映画にも大きな影響を与えた。
脚本家としての活動
チャンドラーはハリウッドで脚本の仕事にも関わり、映画の脚本や台詞の改稿などを手がけた。映画界での経験は彼の物語作りにも影響を与え、映像的で緊張感のある場面描写にも結びついている。彼の小説はいくつか映画化され、特にビッグ・スリープ(1946年、ハワード・ホークス監督、ハンフリー・ボガート主演)や長いお別れ(1973年、ロバート・アルトマン監督)などが知られている。
評価と遺産
チャンドラーはハードボイルド探偵小説の確立者の一人と見なされ、その独特の文体と人物描写、都市の暗部を描く眼差しは、ミステリ文学史において重要な位置を占める。晩年にはアメリカの推理作家団体で要職を務めるなど、同業者からの評価も高かった。没後も翻訳や映画化を通じて世界中の読者・観客に読み継がれている。
晩年と死去
チャンドラーは晩年も創作と映画界との関わりを続けたが、1959年3月26日にカリフォルニア州ラ・ホーヤで死去した。享年70。今日でも彼の作品は古典として再評価され、フィリップ・マーロウは探偵小説を語る上で欠かせない存在となっている。