逆転写酵素とは|RNAからDNAを合成する仕組みと種類解説

逆転写酵素とは?RNAからDNAへ逆転換する仕組みと代表的な種類を図解でわかりやすく解説。研究や診断に役立つ基礎知識を短時間で習得。

著者: Leandro Alegsa

逆転写酵素は、RNAからDNAに「逆戻り」して働く酵素である。通常の転写では、DNAからRNAが合成されるが、逆転写はこの逆である。DNAポリメラーゼの酵素で、一本鎖のRNAを一本鎖のDNAに転写する。また、逆転写された一本鎖cDNAに相補的な二本鎖のDNAを合成する。

よく研究されている逆転写酵素には、以下のようなものがあります。

逆転写酵素の基本的な働きと特徴

逆転写酵素は主に次の3つの酵素活性を持つことが多いです。

  • RNA依存性DNAポリメラーゼ活性(RNA→DNA合成):RNAを鋳型にして相補的なDNA(cDNA)を合成します。
  • RNase H活性:RNA-DNAハイブリッドのRNA鎖を切断・分解する活性で、合成されたDNA鎖のもとになっていたRNAを除去します。
  • DNA依存性DNAポリメラーゼ活性(DNA→DNA合成):一本鎖cDNAを鋳型に二本鎖DNAを合成します。

これらの活動により、一本鎖RNAから最終的に二本鎖DNA(プロウイルDNAなど)が作られ、宿主のゲノムへ組み込まれることがあります。逆転写酵素は金属イオン(通常はMg2+)を補因子として使い、構造的には「指・ひら・親指」ドメインやRNase Hドメインを持つことが多いです。

代表的な逆転写酵素(種類と例)

  • レトロウイルス由来の逆転写酵素:HIV-1逆転写酵素など。多くは複合体を形成し、p66/p51のようなサブユニット構成を持つものがあります。ウイルスのライフサイクルで必須であり、阻害剤が抗ウイルス薬として用いられます。
  • モロニー・ムーリー白血病ウイルス(M-MLV)やトリスティン癌ウイルス(AMV)由来の酵素:研究および分子生物学の現場でcDNA合成に広く使われてきた酵素です。これらを改変した製品(SuperScriptなど)は高感度な逆転写を可能にします。
  • テロメラーゼ(TERT):内部にRNAテンプレートを持つ特殊な逆転写酵素で、染色体末端のテロメア配列を伸長する役割を担います。細胞老化やがん生物学で重要です。
  • レトロトランスポゾン由来の逆転写酵素:LINE-1(L1)などの非LTRレトロトランスポゾンがコードするORF2pは逆転写活性をもち、ゲノム内での移動(ジャンプ)を引き起こします。
  • グループIIイントロン由来の逆転写酵素(群IIイントロンRT):熱安定性を示すものがあり、近年のRNAシークエンシングや全長cDNA合成に有用なツール(TGIRTなど)として注目されています。
  • 細菌や古細菌のレトロンなどのRT様酵素:近年の研究で多様な逆転写様酵素が報告されており、ゲノム進化や免疫応答に関わる例もあります。

逆転写の分子機構(レトロウイルスを例に)

  • ウイルス粒子内でパッケージされた一本鎖RNA(ゲノム)に対し、tRNAなどがプライマーとして結合します(PBS:primer binding site)。
  • 逆転写酵素のRNA依存性DNAポリメラーゼ活性により、まず「マイナス鎖DNA(−DNA)」が合成されます。
  • 生成されたRNA-DNAハイブリッドのRNA鎖はRNase Hにより分解され、部分的な転位(strand transfer)を経て逆転写が進行します。
  • ポリピリミジンプライマー(PPT)領域が残され、これがプラス鎖DNA(+DNA)合成の起点となり、最終的に二本鎖DNAが完成します。
  • 完成した二本鎖DNA(プロウイルDNA)はインテグラーゼにより宿主のゲノムに組み込まれます。

生物学的・医療的意義

  • 逆転写酵素はレトロウイルス(HIVなど)やレトロトランスポゾンの増殖に必須であり、その誤コピー(高い変異率)はウイルス進化や薬剤耐性の原因になります。
  • テロメラーゼの活性は細胞老化やがんで重要な役割を果たし、がん治療のターゲットとして研究されています。
  • 逆転写酵素阻害剤(NRTIやNNRTI)はHIV治療の中核をなしており、AZT(ジドキシチミジン)やラミブジン、テノホビル、エファビレンツなどが知られます。

研究・技術応用

  • 逆転写酵素は分子生物学で不可欠なツールです。逆転写PCR(RT-PCR)やqRT-PCR、RNAシークエンシング(RNA-seq)用のcDNA合成に使われます。
  • M-MLVやAMVから派生した製品(SuperScriptシリーズなど)や、熱安定性の高いTGIRTなど、用途に応じて高感度・高忠実度・高温での逆転写が可能な酵素が使い分けられます。
  • 逆転写酵素の特性(プロセシビティ、エラー率、温度安定性、RNase H活性の有無)を理解することが、実験の成功には重要です。

まとめ

逆転写酵素はRNA情報をDNAへ写し取る独特の酵素で、ウイルス・トランスポゾンのライフサイクル、テロメアの伸長、そして分子生物学的手法の基盤になっています。種類や性質は多様で、それぞれが持つ活性や安定性の違いが生物学的機能や研究応用に直結します。特に医療的には逆転写酵素を標的とした薬剤が重要な役割を果たしています。

HIV逆転写酵素の結晶構造。   P51サブユニットは緑色、P66サブユニットは水色で表示されている。Zoom
HIV逆転写酵素の結晶構造。   P51サブユニットは緑色、P66サブユニットは水色で表示されている。

HIV逆転写酵素の結晶構造解析Zoom
HIV逆転写酵素の結晶構造解析

歴史

逆転写酵素はウィスコンシン大学マディソン校のハワード・テミンによってがんウイルスから発見されました。1970年、MITのDavid Baltimoreによって、2つのRNA腫瘍ウイルスから独自に単離された。その功績により、2人は1975年のノーベル医学生理学賞をレナート・ダルベッコと共同で受賞した。

逆転写という考え方は、分子生物学のセントラルドグマに反するということで、当初は非常に不評でした。DNAはRNAに転写され、それがタンパク質に翻訳されるというのが、分子生物学の基本的な考え方です。しかし、1970年にハワード・テミンとデビッド・ボルティモアの2人が逆転写を担う酵素を発見し、遺伝情報がこのように受け継がれる可能性がようやく認められるようになったのです。

この研究から、最初のゲノムはRNA遺伝子でできているという考えが生まれました。現在残っているRNA遺伝子は、この初期の状態のものばかりかもしれません。逆転写酵素は、RNA遺伝子をコピーしてDNA遺伝子を作っていた時代の名残りかもしれません。この説は、進化の初期段階に関連しています。逆転写は、トランスポゾンと呼ばれる様々な半独立した要素によっても利用されている。



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