リンド数学パピルスとは|大英博物館所蔵の古代エジプト数学写本の概要

大英博物館にあるラインドのパピルス(リンド数学パピルス、Rhind Mathematical Papyrus)は、古代エジプトの実用的な数学を伝える最も重要な資料の一つです。名称は1858年にこの写本を購入したスコットランドの古物収集家アレクサンダー・ヘンリー・ラインドに由来します。彼はルクソール近郊でこのパピルスを入手し、発見はラメセウム付近での非公式な発掘調査中だったと伝えられます。文書自体は紀元前1650年頃(あるいはやや後の紀元前1550年頃)に書かれたとされますが、写本であるため元文はさらに古い時代のものです。

内容と構成

このパピルスには、算術、代数幾何学に関する問題と解法、三角に関わる実用的な取り扱い、分数の処理(特に単位分数への分解法)など、多彩な数学的記述が含まれます。特に注目される点は以下の通りです。

  • 単位分数(1/n)を基本とした分数表現と、その分解法の具体例。
  • 「仮錯誤法(false position)」に類する線形方程式の解法の利用。
  • 円の面積や直方体の容積、土地やパンの分配・税の計算など、日常的・実務的な応用問題。
  • 直径から面積を求める近似法(パピルスに見られる公式は、d を直径とすると面積 ≈ [(8/9)d]^2 を用い、これにより π ≒ 3.1605 の近似値が得られる)

リンドのパピルスは、同様に重要な資料であるモスクワ数学パピルスと並び、古代エジプトの数学を知るための主要な一次資料です。モスクワのパピルスの方が古いと考えられていますが、リンドの方が大判で問題数も多く、実務的な例が豊富に示されています。

成立・筆写・形状

現在残る写本は、アメンエムハト3世(第12王朝)の時代にあったと考えられる古いテキストから、書記アフメス(Ahmes)によって写されたものと伝えられます。写本はヒエラティック(簡略化したヒエログリフ)で書かれており、エジプトの写本は、高さ約33cmの巻紙から成り、全長はおよそ5メートル(16フィート)以上に達します。本文には、Hyksos 王アポピス(Apophis)の治世33年と、裏面に彼の後継者Khamudiの治世と推定される年11が記されている箇所があり、これが写本の作成年代を特定する根拠の一つになっています。

冒頭の序文で書記アフメスは、この写本を「正確な算術とあらゆる事柄の知識、秘儀…すべての秘密を明らかにするもの」と位置づけ、旧来の写本から書き写したこと、上・下エジプトの王の威厳の下で作成された由来を述べています。

学術的意義と特徴

リンド数学パピルスは、古代エジプト人が数値計算をどのように実務に応用していたかを直接伝えます。測量や建築、穀物やパンの分配、税の計算といった実用例が多く、抽象的な理論よりも「問題を解く手順(アルゴリズム)」が重視されている点が特徴です。単位分数表や分数の分解法、乗算を二倍(doubling)と加法で行う手法、仮錯誤法に基づく方程式解法などは、古代の計算法を知るうえで貴重です。また、円の面積近似の精度は高く、古代の経験的近似が体系的に用いられていたことが分かります。

収集と出版史

ラインドは1858年にルクソールでこのパピルスを取得し、後にその遺産から写本は大英博物館に渡りました。博物館はラインドの収集物を買い上げ、現在も所蔵しています。写本の全文・注釈つきの学術的刊行は19世紀末から20世紀にかけて進み、重要な解題・版としては、1923年にT. Eric Peet による学術版があり、G. A. Griffith による解説や翻訳も歴史的に重要です。さらに、現代的な解説としては Robins と Shute による1987年の概説などが広く参照されています。

現代への影響

リンド数学パピルスは、数学史だけでなく、古代文明の経済・技術・教育の実像を復元するうえで不可欠な資料です。数学的手法がどのように実務に結び付いていたかを示し、単位分数表や実用的解法の体系は、数理的方法が実生活の問題解決にどのように貢献してきたかを理解する手がかりを与えてくれます。

パピルスの一部Zoom
パピルスの一部

質問と回答

Q:リンド・パピルスを発見したのは誰ですか?


A:スコットランドの古美術商、アレクサンダー・ヘンリー・リンドが1858年にエジプトのルクソールでリンド・パピルスを発見しました。

Q:古代エジプトにおける数学に関する主な知識源は?


A:リンドパピルスとモスクワ数学パピルスが、古代エジプトにおける数学の主要な資料です。

Q: ラインドパピルスはどのくらいの長さですか?


A: ラインドパピルスは5メートル以上の長さがあります。

Q: いつ書かれたのですか?


A:紀元前1650年頃に書かれたものです。

Q: 誰が書いたのですか?


A: アフモセという書記官が書きました。

Q: どのような内容が書かれているのですか?



A:算数、代数、幾何学、三角法、分数などです。

Q: アレクサンダー・ヘンリー・リンドは何年にエジプトのルクソールから購入したのですか?



A: アレクサンダー・ヘンリー・リンドは1858年にエジプトのルクソールからパピルスを購入しました。

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