ギリシャ語のローマ字化とは:定義・歴史・転写と音訳、ELOT/ISO標準ガイド
ギリシャ語のローマ字化とは、ギリシャ語(古代ギリシャ語または現代ギリシャ語)をラテン文字(ローマ字)で表記する方法の総称です。目的や用途に応じて大きく二つの方法があります:文字を一対一で置き換える「転写(transliteration)」と、音声をラテン文字で表す「音訳(transcription)」です。どちらを使うかで同じ単語でも表記が異なり、実務(地名や人名の公的表記)・学術(古典研究)・日常(名前のカタカナ化や観光案内)で使い分けられます。
転写と音訳の違い
転写(transliteration)は、ギリシャ文字の各字母に対して決まったラテン文字列を割り当てる方法です。目的は文字の対応関係を明確に保つことで、元の綴りに忠実な表記を与えます。一方、音訳(transcription)は発音を重視し、聞こえる音をラテン文字で表現します。これにより、発音に基づいてより親しみやすい、あるいは読みやすい表記になることが多いですが、原綴りが分かりづらくなる事があります。
例えば現代ギリシャ語の男性名 Γιάννης は、転写すると "Giannis"、音訳的には発音に基づいて英語圏では "Yannis" または日本語の音に近い表記で「ヤニス」とされることが多いです。また前に説明のあった宗教語の Άγιος(“聖”)は、転写や慣用により Hagiοs, Agios, Aghios, Ayios といった異なるラテン転写が見られます。この違いは、歴史的な綴りの伝承や各言語圏での慣習、また学術的か一般向けかという用途の差に起因します。
文字と音の変化が与える影響
古代ギリシャ語と現代ギリシャ語では発音が変化しているため、同じギリシャ文字でも時代や目的によって適切なローマ字化は異なります。例えば:
- β(ベータ)は古代では /b/、現代では /v/ に近い音です。
- φ(ファイ)、θ(シータ)、χ(カイ)は古代には有気音(pʰ, tʰ, kʰ)として扱われましたが、現代ではそれぞれ /f/, /θ/, /x/(英語の th、ドイツ語の ch に近い)などの摩擦音として発音されます。
- ει, οι, υ などの二重母音・母音字列は現代では /i/ と発音されることが多く、これにより音訳は単純化されます。
このような音の変化により、19〜20世紀にかけて人名・地名のローマ字表記は各国で多様に変化しました。
歴史と標準化(ELOT と ISO、BGN/PCGN など)
ギリシャ語のローマ字表記の伝統的な形式の一部は、ローマ帝国時代にラテン字がギリシャ文字に対応して定着したことに由来します。近現代においては、公的・国際的な利用に対応するために標準化の努力が進められました。ギリシャの標準化団体 ELOT(Hellenic Organization for Standardization)は1980年代にラテン化規則を策定し、その後国際的調整が行われました。これを基に ISO(国際標準化機構)でも規格化が行われ、学術・行政・図書館等で採用される各種システム(例えば図書館や地名委員会による規則、BGN/PCGN 等)には細かな差異はあるものの、互換性のある形式が普及しました。
国連の地名標準化の場でも議論され、1987年の国連会議やその後の国際的取り決めを通じて、ラテン表記の統一化が進められてきました。さらに、英国の PCGN(Permanent Committee on Geographical Names)や米国の BGN(Board on Geographic Names)も独自の採用や修正を行っています。学術用途向けの標準と官公庁での公文書向けの標準には違いがあるため、用途に応じた選択が必要です。
ギリシャ国内での公的表記と近年の動き
ギリシャでは長らくパスポートや身分証明書などの公的文書におけるローマ字表記に関して ELOT 系の規則が用いられてきました。しかし近年は個人の慣用表記(英語名として定着している綴りなど)を尊重する方向に法的・行政的な対応が見られます。たとえば、公式の標準表記(例:"Demetrios" または "Dimitrios" のような一義的な表記)を併記することを条件に、個人の希望する不規則な表記の使用を認める運用が行われるようになりました。実務上は、パスポートや航空券、戸籍などで表記の整合性が重要となるため、どの表記が公式に使われるかを事前に確認することが大切です。
実例と注意点
- 同じギリシャ語の単語でも、学術的な転写と日常的な音訳で異なる表記になる(例:Αθήνα → Athina(転写)/Athens(英語慣用名))。
- 個人名は慣用形が強く働くため、家族や本人の希望、既に国際的に定着している綴りを尊重するケースが多い。
- 地名や歴史用語は一貫した標準表記を用いることが望ましく、国際的文書やデータベースでは ISO 系や各国の地名委員会のルールに従うのが一般的。
主なローマ字化システム(参考)
- ELOT(ギリシャ標準)— 官公庁や旅券での使用例が多い。
- ISO(国際標準)— ELOT を基にした規格化が行われている(ISO 843 など)。
- BGN/PCGN— 英語圏での地名表記に用いられる慣例的な方式。
- ALA-LC(米国図書館協会/議会図書館)等— 図書・資料の目録作成で使われることが多い方式。
まとめると、ギリシャ語のローマ字化は「いつ」「誰が」「何のために」使うかによって最適な方法が変わります。学術的に厳密に原字を残す転写、発音を重視する音訳、または各国で運用される公的規則のいずれかを目的に応じて選択してください。用途に応じた標準や慣用表記を確認することが現実的な対応になります。
質問と回答
Q:ギリシャ語のローマ字表記とは何ですか?
A:ギリシャ語のローマ字表記とは、ギリシャ語(古代ギリシャ語、現代ギリシャ語のいずれか)をローマ字で表記する方法です。
Q:どのように行うのですか?
A:文字(音訳)と音(転写)のどちらかを対応させることで可能です。
Q:英語での音訳の例を教えてください。
A:ギリシャ語の「Ἰωάννης」は「Johannes」と音訳され、現代英語では「John」になります。
Q:現代ギリシャ語は古代ギリシャ語とどう違うのですか?
A:現代ギリシャ語の音は古代ギリシャ語とはかなり異なっており、英語などで使われる用語に影響を与え、19世紀から20世紀にかけて、名前や地名などのローマ字表記にさまざまな違いが生じました。
Q:公的な目的のために名前をローマ字表記するシステムを発行したのはどこですか?
A: 1983年に国際標準化機構(ISO)と協力して、ヘレニック標準化機構(ELOT)が発行しました。
Q: ELOTのシステムはいつから様々な団体に採用されたのですか?
A: ELOTのシステムは、1987年にモントリオールで開催された国連の第5回地理的名称の標準化会議、1996年にイギリスの地理的名称常設委員会(PCGN)とアメリカの地理的名称委員会(BGN)、1997年にISOで採用(マイナーチェンジあり)されています。
Q: ギリシャ人が自分の名前を公式に書くとき、不規則な形を使うことは許されるのですか?
A: ギリシャ人はΔημήτριοςに "Demetrios "のような不規則な形を使うことができますが、公的な身分証明書や書類には "Dimitrios "のような標準形も記載されています。