地震計とは|仕組み・測定原理・種類と地震トモグラフィー入門
地震計は、地震や核爆発などによる地盤の動きを検出・記録する装置です。地面のわずかな揺れ(数ナノメートルから数メートルまで)を感知し、電気信号に変換して時間軸上に記録します。観測データは地震の検出だけでなく、防災・減災、地球内部構造の解明、地下での人為的な振動監視など、多くの用途に使われます。
地震計と呼ばれる装置で記録された地震波は、地球内部の構造を描き出し、震源の位置(震源域・震央・震源の深さ)や地震の規模(モーメントマグニチュードなど)を推定することに役立ちます。また、観測網を用いることで地震の早期警報や地震動予測にも用いられます。
この言葉は、ギリシャ語の seismós(揺れ)に由来し、動詞 σείω(seíō、揺らす)や μέτρον(métron、測る)から来ています。つまり「揺れを測る機器」という意味です。
地震計の仕組み・測定原理
地震計は基本的に「慣性の法則」を利用して地面と相対的に動く質量(検出質量)を用い、その相対変位や速度、加速度を検出します。主な原理は次の通りです。
- 質量-ばね系(ペンデュラム)方式:固定された筐体に対して慣性質量が相対的に動く際の変位を検出します。古典的な地震計の基本形です。
- 電磁誘導方式:磁石とコイルの相対運動による誘導電圧を測定して速度を検出します。長周期〜短周期の地震計で用いられます。
- 加速度計(A/Dセンサー):加速度に敏感なセンサーで直接加速度信号を取得します。大きな振幅をとらえるのに適しています。
- 地中音響・圧電方式:圧電素子やストレインゲージを用いて振動を電気信号に変換するタイプもあります。
得られた電気信号はアンプで増幅され、アナログ-デジタル変換(サンプリング)を経てデジタル記録されます。機器ごとに「器機応答(instrument response)」があるため、実際の地盤運動(変位・速度・加速度)に補正して変換することが必要です。
主要な地震計の種類
- 短周期(短波長)地震計:地表近くの高周波成分を捉える。小さな地震検出や地震波の到時解析に有効。
- 長周期(低周波)地震計:周期数秒〜数十秒の長周期成分を捉え、深部や遠方の地震、大規模地震の低周波成分解析に適する。
- ブロードバンド地震計:非常に広い周波数帯(ミリヘルツ〜数十ヘルツ)をカバーし、様々な研究に汎用的に用いられる。
- 加速度計:強い揺れでも飽和しにくく、建築・土木分野や強震観測網で利用される。
- 海底地震計・地下地震計:海底や深部に設置して、陸上観測では得られない地震情報を取得する。
地震波と観測でわかること
地震波には主にP波(Primary)、S波(Secondary)、表面波(Love波・Rayleigh波)があります。これらの到達時間差、振幅、位相、波形の変化を解析することで:
- 震源の位置(震央・深さ)と発生時刻の決定
- 地震のエネルギー量やモーメントの推定(マグニチュード算出)
- 地盤や岩盤の速度構造(弾性波速度)の推定
- 断層の性質や破壊過程の解析
地震トモグラフィー入門
地震トモグラフィーは、地震波の伝播速度の差(到達時間のずれや振幅変化)を逆問題として解き、内部の速度分布を復元する方法です。X線CTの地球版と考えるとわかりやすく、観測点(地表・海底・地下)と地震源(自然地震や人工震源)から得られる多数の伝播経路を使います。
代表的な手法:
- 局所トモグラフィー:火山や断層周辺などの狭域を高分解能で解析。
- 全地球トモグラフィー:地震の波を世界的に集めてマントルや核の大規模構造を推定。
- 体波トモグラフィー vs 表面波トモグラフィー:体波は深部まで、表面波は浅部構造に敏感。
トモグラフィーにより、温度や岩石の組成差、流体の存在などを示す速度異常を可視化でき、地殻・マントルの動態や火山活動の予測に貢献します。
運用と応用
- 防災・警報:地震観測網からのリアルタイムデータは早期警報システムや震度推定に使われます。
- 核実験監視:地下核爆発は地震波を生むため、国際的な監視(CTBTなど)にも利用されます。
- 工学用途:地盤の動特性評価、構造物の耐震設計、地盤改良の効果確認など。
- 基礎研究:地球物理学・地質学における内部構造とダイナミクスの解明。
感度・ノイズ・校正
地震計は非常に高感度ですが、周囲の雑振動(交通、風、潮汐、温度変化など)や機器固有のノイズが観測に影響を与えます。屋内設置や地下シェルター、温度管理、機械的遮断によりノイズ低減を図ります。定期的な校正と器機応答の補正が正確な解析には不可欠です。
まとめると、地震計は地球の「内部を見る目」として不可欠な観測器であり、その進化とネットワーク化は地震学・地球科学・防災分野に大きな貢献をしています。


強震計。