シグナル認識粒子(SRP)とは:定義・構成・機能とタンパク質輸送の仕組み
シグナル認識粒子(SRP)の定義・構成・機能を図解で詳解。タンパク質の小胞体/細胞膜への輸送機構と生物ごとの違いをわかりやすく紹介。
シグナル認識粒子(SRP)は、細胞質に存在する、リボヌクレオタンパク質(タンパク質とRNAの複合体)で、分泌蛋白質や膜蛋白質の合成と輸送を共役させる役割を持つ分子複合体です。新生ポリペプチド鎖のN末端に現れる疎水性のシグナル配列(シグナルペプチド)や膜貫通領域を認識し、そのリボソーム-新生鎖複合体(RNC)を標的膜へ導きます。標的膜は、真核生物では主に小胞体(ER)の膜であり、原核生物では細胞膜です。
構成
- SRPはタンパク質とRNAからなる複合体で、生物種ごとに構成要素の数やサイズが異なります。
- 一般に中心的役割を果たすのはSRP54(細菌ではFfhに相当)というGTP結合タンパク質で、シグナル配列の認識とGTP依存的な機能制御を担います。
- 真核生物のSRPは7SL(7S)RNAと複数のタンパク質サブユニット(例:SRP9、SRP14、SRP19、SRP54、SRP68、SRP72)から成り、細菌のSRPは一般に1種類のタンパク質(Ffh)と4.5S RNAなど、より小さな構成です。古細菌(アーキア)はその中間的な構成を持ちます。
機能と仕組み(概略)
SRP経路は大まかに次の流れで進行します。
- 認識:リボソームから新生鎖のシグナル配列や膜貫通領域が出てくると、SRPのSRP54サブユニットがそれを捕捉します。
- 翻訳の一時停止(ポーズ):SRPの結合によりポリペプチド伸長が一時的に遅延または停止し、未完成のポリペプチドがシリアスに露出している状態が保たれます(これにより新生鎖の誤った折り畳みや誤局在を防ぎます)。
- 標的膜への輸送:SRP-リボソーム-新生鎖複合体は標的膜上のSRP受容体(原核生物ではFtsY、真核生物ではSRα/β複合体)に結合します。この段階でSRPと受容体のGTP結合・加水分解サイクルが重要な役割を果たします。
- トランスロコン(膜孔)への受け渡し:ドッキング後、SRPはリボソームから解離し、翻訳は再開されます。新生鎖は膜貫通チャネル(真核生物:Sec61複合体、原核生物:SecYEGなど)を通じて膜内あるいは膜を越えて搬入されます。多くの場合シグナルペプチダーゼがシグナル配列を切断します。
- GTPase 活性:SRP54(Ffh)と受容体は双方がGTP結合タンパク質で、GTP結合と加水分解に伴う構造変化が結合・解離・受け渡しのタイミングを制御します。
共翻訳輸送と後翻訳輸送の違い
SRP経路は主に共翻訳的(co-translational)輸送に関与します。すなわち、翻訳と同時進行でポリペプチドを膜に挿入・輸送します。これに対し、いくつかのタンパク質は翻訳終了後にシャペロンなどと協調して後翻訳的に輸送される場合もあり、生物種や蛋白質の性質によって使い分けられます。
保存性と生物間の差異
SRPは「普遍的に保存されている」と表現されるほど広く存在し、細胞内で重要な役割を果たしますが、その具体的な構成やサブユニット数、補助因子は生物によって大きく異なります。細菌では単純な構成で効率良く膜蛋白質の挿入を行い、真核生物ではより多くのサブユニットと複雑な調節機構を備えて、小胞体への高精度な標的化を実現しています。
生物学的・医学的意義
SRP経路は分泌系・膜蛋白質の局在に必須であり、この経路の障害はタンパク質の誤局在、分泌不全、細胞機能障害を引き起こす可能性があります。最近の研究ではSRP関連因子の変異がヒト疾患と関連する例も報告されており、基礎生物学だけでなく医療的にも注目されています。
まとめると、SRPはリボヌクレオタンパク質として新生鎖のシグナルを認識し、GTP依存的な機構でリボソームを標的膜へ導き、トランスロコンへの受け渡しを通じてタンパク質を正しい場所へ輸送する、細胞にとって不可欠な輸送経路です。
質問と回答
Q: 信号認識粒子(SRP)とは何ですか。A: シグナル認識粒子(SRP)は細胞質に存在するリボ核タンパク質で、特定のタンパク質を認識し、真核生物の小胞体や原核生物の細胞膜に標的化します。
Q: SRP-リボソーム複合体が細胞膜レセプターに結合するとどうなるのですか?
A: SRP-リボソーム複合体が細胞膜レセプターに結合すると、SRPはリボソームを放出し、細胞膜から離れます。
Q: SRPがリボソームを放出した後、リボソームは何をするのですか?
A: リボソームはタンパク質合成を再開しますが、タンパク質はSRP-受容体膜貫通孔を通って移動します。
Q: SRPの細胞内での機能は何ですか?
A: SRPは、膜貫通孔と結合することで細胞内のタンパク質の動きを制御し、タンパク質が膜を通過して必要な場所に移動できるようにします。
Q: 真核生物におけるSRPの標的は何ですか?
A: 真核生物では、SRPの標的は小胞体膜です。
Q: SRPはすべての生物に存在するのですか?
A: はい、SRPは "普遍的に保存されている"、つまり、すべての生物が細胞内に持っているほど重要な物質です。
Q: SRPの組成は生物によって大きく異なるのですか?
A: はい、普遍的に保存されているにもかかわらず、SRPの実際の組成は生物によって大きく異なります。
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