修道女のバレエ』は、最初のバレエ・ブランであり、最初のロマンティック・バレエであるとされる作品です。ジャコモ・メイヤーベーアの大作オペラ『ロベール・ル・ディアブル』の第三幕のエピソードとして、1831年11月にパリ・オペラ座で初演されました。振付は伝統的にフィリッポ・タグリオニに帰せられることが多いですが、ジャン・コラッリが担当したとする見解もあり、正確な振付者については史料によって異なります。
あらすじ
舞台は廃墟となった回廊の一角。ここで、かつての修道女たちが墓から蘇り、亡霊のように現れます。彼女たちは白衣をまとい、夜の静寂の中で舞いながら、若き騎士ロベール・ル・ディアブルを誘惑します。最終的に修道女たちは再び墓へと戻り、消え去る──という短いエピソードです。舞台美術と衣裳、群舞の統一された白いイメージが、超自然的で夢幻的な雰囲気を強調します。
演出・照明と舞台効果
この場面は、当時オペラ座に新設されたガス照明のデモンストレーションのためにも上演されました。ガス灯を用いることで、より微妙な陰影や蒼白な光を作り出し、幽玄で恐ろしい効果がもたらされました。これにより、白い衣裳をまとった女性たちの姿が舞台上で浮かび上がるように見え、観客に強い印象を与えました。
出演と影響
この短いバレエで主役を務めたのはマリー・タグリオニが演じたヘレナ(修道院長)役で、初演は細かなトラブルにも見舞われましたが、彼女の演技はバレエ界に強烈な印象を残しました。マリー・タグリオニはその軽やかな跳躍、つま先(ポワント)を駆使した舞踊、そして倫理的・道徳的な純粋さを演技の特徴として見せ、以後ロマンティック・バレエの象徴的存在となりました。
歴史的意義と遺産
『修道女のバレエ』は舞台美術、照明、衣裳、主題(幽霊、誘惑、宗教的象徴)を総合して用いることで、以後のロマンティック期バレエに決定的な方向性を示しました。いわゆる「バレエ・ブラン」(白衣の群舞)の美学や、女性の幽玄な表現、長めのチュチュとポワントを強調するスタイルは、その後の名作(例えば『ジゼル』など)に直接的な影響を与えています。また、オペラの中のデヴェルティスマンとしての短い挿入バレエであったにもかかわらず、舞踊史における位置は大きく、舞台照明技術の革新と結びついた例としても注目されます。
内容や振付、初演時の具体的経緯については史料に揺れがあるため、専門書や当時の批評を参照するとより詳しい背景が確認できます。『修道女のバレエ』は短いプロットながら、ロマンティック・バレエの成立における重要な出発点とされています。



