甲状腺刺激ホルモン(TSH)とは:機能・作用・健康への影響をわかりやすく解説
甲状腺刺激ホルモン(TSH)の役割や作用、健康への影響をわかりやすく解説。検査・異常サインと対処法も紹介。
甲状腺刺激ホルモン(サイロトロピン、TSHとも呼ばれる)は、甲状腺を刺激するホルモンである。甲状腺は甲状腺ホルモンを分泌し、体の化学機能のスピード(代謝速度)をコントロールします。甲状腺ホルモンは、体内のほとんどすべての組織を刺激してタンパク質を作らせ、細胞が使う酸素の量を増やすという2つの方法で、代謝速度に影響を与えます。甲状腺ホルモンは、多くの重要な身体機能に影響を及ぼします。
チロトロピンは、下垂体前葉のチロトロープ細胞で合成・分泌される糖タンパク質ホルモンで、甲状腺の内分泌機能を調節しています。
TSHの働きとその影響
TSHは主に甲状腺に作用して、甲状腺ホルモン(主にチロキシン=T4、さらに活性型のトリヨードチロニン=T3へと変換されます)の産生と分泌を促します。甲状腺ホルモンは次のような身体機能に関与します。
- 基礎代謝の調節(エネルギー消費の速度)
- 体温調節、心拍数や血圧の維持
- 消化機能、筋肉と骨の健康、脳の発達や認知機能
- コレステロールや糖代謝の調整
分泌の調節(視床下部−下垂体−甲状腺軸:HPT軸)
TSHの分泌は視床下部から出るTRH(甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン)によって刺激され、血中の甲状腺ホルモン(T4・T3)が十分にあると負のフィードバックでTSHの分泌が抑えられます。これにより甲状腺ホルモンの濃度が安定する仕組み(ホメオスタシス)が保たれます。
TSH検査と正常範囲
TSH測定は甲状腺機能を評価するための最も一般的な血液検査です。一般的な参考範囲は検査法や施設によって異なりますが、目安としてはおおむね 0.4〜4.0 mIU/L 程度とされることが多いです。ただし、以下の点に注意が必要です。
- 妊娠中や高齢者、検査方法によって基準値が変わる。
- TSHだけでなく遊離T4(free T4)や場合によってはT3も同時に測ると正確な判断ができる。
- 採血時間・服用中の薬剤・急性疾患などで結果が影響されることがある。
TSHが高い(甲状腺機能低下:低下症)の意味
血中TSHが高く、T4/T3が低い場合は甲状腺そのものの機能が低下していること(一次性甲状腺機能低下症)が疑われます。主な原因:
- 橋本病(自己免疫性甲状腺炎)
- 甲状腺の手術や放射線治療後
- ヨウ素不足(地域による)
- 一部の薬剤(リチウムなど)
症状:疲れやすい、寒がり、体重増加、便秘、皮膚乾燥、抑うつ、月経異常など。治療は主に合成甲状腺ホルモン(レボチロキシン)の補充です。
TSHが低い(甲状腺機能亢進:亢進症または中枢性の異常)の意味
血中TSHが低く、T4/T3が高い場合は甲状腺が過剰にホルモンを作っている(グレーブス病など)ことが疑われます。一方で、TSH低下でT4/T3も低い場合は視床下部や下垂体の病変(中枢性甲状腺機能低下症)が原因のことがあります。
- 一次性甲状腺機能亢進症の原因:バセドウ病(グレーブス病)、甲状腺炎、過剰なヨウ素摂取、過剰な甲状腺ホルモン投与など。
- 症状:動悸、体重減少、発汗、手の震え、不眠、イライラ感など。
検査の注意点・誤判定しやすい状況
- TSH単独での評価は誤解を生む場合があるため、free T4や抗体検査(抗TPO抗体、抗TSH受容体抗体)を併行することが望ましい。
- 急性疾患やストレス、特定薬剤によって一時的にTSHが変動することがある。
- 検査値は年齢や妊娠の有無で解釈が異なる(妊娠初期は一般にTSH目標値がより低く設定される)。
治療とフォローアップ
甲状腺ホルモン補充(レボチロキシン)や抗甲状腺薬、アイソトープ治療、手術など、原因や重症度に応じた治療が行われます。治療後はTSHやfree T4を定期的に測定して投薬量を調整します。一般的に安定するまで数週間〜数ヶ月かかることがあります。
妊娠・高齢者での注意点
- 妊娠中は胎児の発達に甲状腺ホルモンが重要なため、TSH管理は特に重要です。推奨される目標TSH値は妊娠期で異なり、1トリメスターでは通常より低めに設定されます(例:約0.1〜2.5 mIU/Lなど、施設の基準に従う)。
- 高齢者ではTSHの「正常範囲」が若年者と異なることがあり、わずかな上昇が必ずしも治療を要するとは限らないため、個別評価が重要です。
まとめ
TSHは甲状腺機能評価の基礎となる重要な指標です。高値・低値はいずれも身体に広範な影響を及ぼしますが、正しい診断にはTSH単独ではなくfree T4や臨床症状、必要に応じて抗体検査や画像検査を組み合わせることが大切です。疑わしい症状がある場合や検査結果に異常がある場合は、専門の医師に相談してください。
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