アルスター・スコッツ人は、アイルランドの民族で、ローランド・スコッツ人とイングランド人の子孫にあたり、昔は国境地帯の出身者を「ボーダー・レイバー(border reiver)」と呼んでいました。これらの人々がアイルランドに大量に移住し始めた主要な契機は、イングランドのジェームズ1世が命じた「アルスターのプランテーション」で、特に多くが現在のアルスター州に入植しました。なお「アルスター・スコットランド人(Ulster Scots)」という呼称は、17世紀に入植したスコットランド・イングランド系の移民だけでなく、何世紀も前に現在のスコットランド北西部から到来し始めたギャロウェイ系などの集団も含めて用いられることがあります。
起源と構成
アルスター・スコッツ人の多くは、ギャロウェイやアーシャー、およびスコットランド・ボーダーズの入植者の子孫です。一部にはスコットランド低地や高地(ハイランド)出身の家系も含まれており、世代を経てアルスター地域で独自のコミュニティと文化を形成しました。宗教的には当初からプロテスタント(特に長老派=ピューリタン/プレズビテリアン)が多く、これが後の移住や政治的立場に大きな影響を与えました。
移民と拡散
アルスター・スコッツの人々は、18世紀を中心に大量に海外へ移住しました。特に北米(現在のアメリカ)へは多くが渡り、同時に大英帝国の他地域──カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカ──へも移住しました。また、南米では南米のアルゼンチンやチリにも少数が移り住んでいます。移住の主な要因は、土地不足や経済的困窮、宗教的差別や政治的抑圧からの逃避、さらに新天地での機会を求める動機などが複合したものです。
文化的特徴と影響
アルスター・スコッツ出身者は移住先で、特にアメリカではフロンティア開拓や地方政治、宗教生活、民俗音楽などに大きな影響を与えました。アパラチア地方の文化やアメリカの初期白人入植者文化に見られる多くの慣習・音楽・言語的特徴の一部は、アルスター・スコッツ由来と考えられています。また、アルスター・スコッツの方言(Ulster Scots、別名Ullans)や宗教共同体は、北アイルランドの社会構造にも重要な位置を占め続けています。
呼称(スコッチ・アイリッシュ/スコッツ・アイリッシュなど)
スコッチ・アイリッシュという語は、後に現在のアメリカへ移住したアルスター・スコッツ系の人々を指す伝統的な英語の呼称です。米国では「Scotch-Irish(スコッチ・アイリッシュ)」という呼び方が広く使われてきましたが、近年は学術的・地域的配慮から「Scots-Irish」や、出自を強調する場合は「Ulster Scots(アルスター・スコッツ)」が用いられることも増えています。辞書や史料の記録を見ても、呼称の使用時期や頻度には変化があり、たとえばメリアム・ウェブスターの辞書では「Scotch-Irish」が1744年から記録されている一方で「Scots-Irish」が後年に登場しているという記録があります。
総じて、アルスター・スコッツ人はスコットランド・イングランド系の遺産を持ちながら、アイルランドで長く生活することで独自の文化と歴史を築き、さらに世界各地へ移住してその社会や文化に影響を与えてきた民族集団です。