ヴィクトリア・クロスVC)は、英連邦諸国や旧大英帝国領の国防軍のメンバーに対して、「敵に直面して」示した際の極めて顕著な勇敢さを称える、最高位の軍事勲章です。他のすべての勲章やメダルよりも上位に位置し、着用順位では常に最上位に置かれます。

授与対象と授与の場

陸軍(陸軍)、海軍(海軍)、空軍(空軍)を含むすべての階級の軍人、あるいは軍務に従事する者が対象となり得ます。授与は通常、バッキンガム宮殿などで行われ、英国の君主から本人に手渡されます。受章者が戦死している場合は遺族に贈られます。英連邦各国では、各国の長(総督や大統領など)によって表彰が行われることもあります(例:各国の総督府からの授与など)。

ジョージ・クロスとの関係

敵対行為に直面しての勇気を表彰するVCは、敵に直面していない勇敢さを称えるジョージ・クロスと並んで、イギリスにおける最高位の勲章です。両者は同等に「最高の勲章」と見なされますが、着用順位の規則ではVCの方が上位に位置します(両方を受章した者がいればVCが先に付けられる)。これまでに両者を両方受けた人物はいません。

創設と歴史的背景

VCは1856年1月29日、クリミア戦争での勇敢な行為を称えるためにヴィクトリア女王によって創設され、その後の各戦争・世界規模の紛争で授与されてきました。これまでに約1,358回(重複受章を含む)に渡り、約1,355人に授与されたとされています。複数回受章した人物もおり、代表的な二度受章者にはノエル・チャヴァス(Noel Chavasse)、アーサー・マーティン=リーク(Arthur Martin-Leake)、チャールズ・アッパム(Charles Upham)などがいます。

授与基準と手続き

VCの授与基準は非常に厳格で、ロイヤル・ワラント(王令)に基づき「敵の存在下で示された、際立って顕著な勇気、もしくは自己犠牲の行為、または任務に対する極度の献身」が認められる場合に限られます。推薦は通常、直属の指揮官から行われ、目撃者の陳述や詳細な報告書を添えて上級機関で審査されます。最終的な承認は政府を経て君主または該当国の長が行います。なお現在は戦死者に対しても遺族に授与されることが認められています。

外見・素材・着用方法

VCは小ぶりな青銅製のクロス(パッテ型)で、中央にクラウンとライオンを配し、下部に"For Valour"(英語で「勇気に対して」)の銘が刻まれています。伝統的にリボンは暗紫色(crimson)で、胸元に先頭で着用します。制作に用いられている青銅は、創設当初はクリミア戦争で捕獲された大砲の金属から鋳造されたと伝えられてきましたが、近年の研究では単一の出所だけではない可能性も示唆されています。

主な受章者・エピソード

VCは様々な時代の数多くの英勇譚に伴って授与されてきました。第一次世界大戦、第二次世界大戦、フォークランド紛争、イラクやアフガニスタンでの戦闘などで授与例があります。二度受章者は極めて稀で、前述のノエル・チャヴァス(WWI)やチャールズ・アッパム(NZ、第二次世界大戦)などが知られています。近年の顕著な受章者には、イラクでの行動に対して授与されたジョンソン・ベハリー(Johnson Beharry)などがいます。

現代の制度と各国版の導入

20世紀末以降、オーストラリア、ニュージーランドカナダではそれぞれ独自の国別ヴィクトリア・クロスを設けています。具体的にはオーストラリアは1991年にVictoria Cross for Australia、カナダは1993年にCanadian Victoria Cross(カナダ版VC)、ニュージーランドは1999年にVictoria Cross for New Zealandを制定しました。これらはそれぞれの国の独立した勲章制度の一部として機能し、授与の最終承認や伝達は各国の政府および長官(総督など)を通じて行われます。

保存・展示と文化的意義

多くのVCは博物館や戦争記念館で展示され、戦史や個々の受章者の物語を伝える重要な資料となっています。英国のインペリアル・ウォー・ミュージアムやオーストラリア戦争記念館などで代表的なコレクションを見ることができます。VCは単なる勲章以上に、「極限状態での人間の勇気と自己犠牲」を象徴する文化的・歴史的な価値を持ちます。

補足・参考

  • 授与は極めて稀であるため、受章は国家的に大きな関心を呼びます。
  • 制度や授与手続きは時代とともに見直されており、ポストホゥムス(戦没者への授与)や各国の独自制度導入など変化が見られます。
  • VCに関する詳細な記録や個別の事例は各国の軍事史資料館や公的アーカイブで確認できます。