ウェールズ語はケルト語の一種で、イギリスの一国であるウェールズの国語です。ウェールズ語では「Cymraeg」または「yr iaith Gymraeg」と呼ばれ、「ウェールズの言葉」という意味です。
ウェールズ国民の約21%(約60万人)と、イングランドなどウェールズ以外の地域でもウェールズ語を話す人がいますが、この地域では今でもウェールズ語が話されています。ウェールズの多くの人々は、常に話しているわけではなくても、話し言葉や書き言葉など、何らかの形でウェールズ語を理解できる、あるいはウェールズ語を読むことができると答えています。
ウェールズ人のほとんどが英語を理解して使えるようになったとはいえ、ウェールズ語はウェールズ文化の重要な部分を占めているため、ウェールズのすべての学校で子どもたちはウェールズ語を学ばなければなりません。ほとんどすべての授業をウェールズ語で行う学校もありますが、ほとんどの学校では主に英語で授業が行われており、ウェールズ語はこれらの学校で第二言語として教えられています。
概略と話者数(最新の傾向)
近年の国勢調査によると、ウェールズ語の話者数は減少傾向と回復の局面が混在しています。2011年の国勢調査では約56万人(約19%)が話者とされましたが、2021年の国勢調査では約538,300人(約17.8%)と報告されています。地域別には北部や西部の農村部で話者割合が高く、都市部や南東の工業・都市圏では割合が低い傾向があります。
歴史の概要
- 起源:ウェールズ語はブリトン語派(Brythonic)の言語で、古代ブリトン語から発展し、コーンウォール語やブルターニュ語と近縁です。
- 中世:中世ウェールズ文学(例:『マビノギオン』)や叙事詩が豊かに発展し、吟遊詩人や荘園文化の言語として栄えました。
- 近世以降の衰退:産業革命や英語移民の流入、政治的・経済的理由で英語化が進行し、19〜20世紀にかけて話者が減少しました。
- 復興運動:19世紀後半からの文化・教育運動(エイステッドフォド〈Eisteddfod〉など)や20世紀後半以降の政策で復興が図られています。
方言と分布
ウェールズ語には地域差があり、一般に北ウェールズ方言と南ウェールズ方言に大別されます。語彙、発音、文法の一部に差があり、互いに完全に同じではありませんが、相互理解は可能です。都市部(カーディフ、スウォンジーなど)にも話者は存在し、移住・教育を通じて分布が変化しています。
教育と言語政策
- 教育:ウェールズでは幼稚園から中等教育まででウェールズ語教育が義務化されており、英語を主要言語とする学校でも第二言語としてウェールズ語が教えられます。完全にウェールズ語で授業を行う「ウェールズ語母語(Welsh-medium)」学校も多数あります。
- 法律・制度:1993年のWelsh Language Act(ウェールズ語法)や2011年のWelsh Language (Wales) Measureにより、ウェールズ語の公的地位が強化され、ウェールズ語は公式言語として認められ、ウェールズ語コミッショナー(Welsh Language Commissioner)の設置などが行われました。
- 施策:学校教育に加え、成人向けのウェールズ語学習コース、職場でのバイリンガルサービス、地方自治体の言語計画などが実施されています。
メディア・文化的役割
- テレビ・ラジオ:ウェールズ語のテレビ局S4C(1982年創設)やラジオ局BBC Radio Cymruなどは、言語継承と文化発信に重要な役割を果たしています。
- 文学・音楽:現代文学、歌、演劇、詩(特に国民的な詩の競技であるエイステッドフォド)はウェールズ語文化の中心です。
- 標識・地名:公共標識や公式文書は多くが二言語(ウェールズ語と英語)で表示されており、地名や企業名にもウェールズ語が使われます。
言語の特徴(入門)
- 文字・音韻:ラテン文字を用い、ch, dd, ff, ng, ll, ph, rh, th といった二文字の子音(複合子音)が文字として扱われることが多いです。母音には a, e, i, o, u, w, y があり、w と y は母音として使われます。アクセントは通常、最後から二番目の音節(ペナルト笑)に置かれます。
- 文法:動詞の形や前置詞が重要で、英語と異なる語順や人称変化、否定表現などがあります。肯定・否定の表現は英語の yes/no に相当する単語だけでなく、動詞を使った応答が一般的です。
基本フレーズ(例)
- こんにちは:Helo
- おはよう:Bore da
- こんにちは(午後):Prynhawn da
- おやすみ:Nos da
- ありがとう:Diolch
- お願いします:Os gwelwch yn dda
- はい:Ie
- いいえ:Na / Naddo(文脈により変わる)
現状と課題
ウェールズ語は法的保護と教育・メディア支援によって確実に復権の基盤を得ていますが、世代間での使用率差や都市化、英語メディアの影響など課題も残ります。話者の増加を目指すためには、日常的に使える場の確保、職場やサービスでの使用促進、若年層の学習支援が重要とされています。
参考・関連事項
ウェールズ語はヨーロッパの少数言語保護の代表例の一つであり、地域言語の復興政策やバイリンガリズム(双言語主義)の研究対象としても注目されています。