Abraham de Moivre(1667年5月26日 - 1754年11月27日)は、フランス生まれの数学者です。確率論の研究で知られ、同時に三角や複素解析にも重要な貢献をしました。特に、ド・モワブルの公式は複素数と三角法を結びつける基本的な関係式として広く用いられています。ド・モワブルはユグノー教徒(ユグノー)であったため、宗教的迫害を避けて若いころにイギリスへ亡命しました。亡命後はロンドンを拠点に数学者たちと交流し、アイザック・ニュートン、エドモンド・ハレー、ジェームズ・スターリングらと親交があり、編集者・翻訳者のピエール・デ・マイゾーらユグノー仲間とも協力して活動しました。

主な業績と影響

  • 確率論:ド・モワブルは確率論の基礎的な書物『The Doctrine of Chances』(邦題「チャンスの教理」)を著し、賭博問題などの扱いで当時の関心を集めました。この著作は確率計算の体系化に寄与し、後の確率論の発展に影響を与えました。
  • 正規近似と中心極限定理への先駆的な貢献:ド・モワブルは二項分布の漸近近似(正規分布による近似)を導き、後にラプラスらによって完成される中心極限定理の先駆的な結果を示しました。この仕事は確率変数の和の振る舞いを理解するうえで重要です。
  • 複素数と三角法:複素数の表現と三角関数を結びつけることで、角の倍数や根の問題を簡潔に扱えるようにしました。これにより三角恒等式や複素根の計算が体系化されました。
  • 解析学・近似論:階乗の漸近挙動などに関する研究は、スターリングの公式などの発展と関連し、組合せ論や確率論での計算に有用な手法を提供しました。

ド・モワブルの公式

ド・モワブルの公式は複素数表示と三角関数を結び付ける次の等式です。任意の実数 θ と整数 n に対して

(cos θ + i sin θ)n = cos(nθ) + i sin(nθ)

この公式は複素数の極形式(r(cos θ + i sin θ))を用いた乗除、根の計算、三角関数の多倍角公式の導出に直接役立ちます。また、複素平面上での回転や振幅の扱いを簡潔に記述できます。

ビネの公式(フィボナッチ数の閉形式)

ド・モワブルは、後にビネの公式と呼ばれるフィボナッチ数の閉形式を早くに見出していました。フィボナッチ数列 Fn は次のように表されます:

Fn = (φn - (1-φ)n) / √5、ここで φ黄金比 (1+√5)/2 です。

この式によりフィボナッチ数の漸近挙動や代数的性質が明確になり、数列の解析に有用な道具が与えられました(歴史的にはジャック・フィリップ・マリー・ビネの名が付きましたが、ド・モワブルも同様の表現を扱っていました)。

生涯と晩年の評価

ド・モワブルは亡命後、ロンドンで家庭教師や友人たちとの交流を通じて学問を続けました。生涯を通じて多岐にわたる数学的貢献を残し、確率論、複素解析、三角法、数列論など後世の発展に大きな影響を与えました。1754年にロンドンで没しましたが、その業績は現代数学の多くの分野で今も利用されています。