レナード・チコ・マルクス(Leonard "Chico" Marx、1887年3月22日 - 1961年10月11日)は、アメリカのコメディアンであり、映画スターでもあった。マルクス兄弟5人のうちの一人として知られ、映画や舞台で独特のキャラクターと音楽的才能を発揮した。
スクリーン上のチコは、しばしばイタリア語のアクセントで話す軽妙な“イタリア系”のペルソナを演じた。巻き毛のカツラを被り、女優に浮いた仕草をして甘い言葉をかける“プレイボーイ”風の役どころが多く、弟のハーポとの掛け合いでひょうきんなトラブルを引き起こす場面が名物だった。
チコは本職のピアニストとしても高い評価を受けた。幼少期は右手だけで弾くことから始め、左手の部分をごまかすように演奏することもあったが、次第に両手でしっかり弾けるようになった。舞台や映画では、即興的にリズムやメロディを入れて笑いにつなげることが多く、ラグタイムやストライド、ブギウギ風のフレーズを取り入れた演奏で観客を楽しませた。
また、チコのピアノ・スタイルにはユニークな仕草があった。親指を立て、人差し指をまっすぐに伸ばして鍵盤を“撃つ”ように弾く動作は彼のトレードマークになり、観客の笑いを誘った。そうしたパフォーマンスは単なるギャグにとどまらず、リズム感や指のコントロールの良さを示していた。
映画では、兄弟たちと共演した作品が多数ある。代表作としては『The Cocoanuts』『Animal Crackers』『Duck Soup』『A Night at the Opera』『A Day at the Races』『At the Circus』『The Big Store』などがあり、チコはどれも印象的なピアノ場面やコミカルな役回りで存在感を示した。舞台で培った即興力を映画の短いやり取りの中に活かし、グループのコメディに大きく貢献した。
私生活では舞台裏での役割も担い、兄弟間のやり取りや楽屋での音楽的アレンジに関わることが多かった。晩年は映画出演も減り静かな生活を送ったが、1961年に亡くなるまで業界内外で尊敬されるピアニスト兼コメディアンとして記憶されている。
チコ・マルクスは、そのユーモアと音楽的才能を融合させた独特の芸風で、マルクス兄弟の中でも特に“音楽で笑わせる”役割を果たした人物として評価されている。