Tomas Robert Lindahl FRS FMedSci(1938年1月28日生まれ)は、がん研究を専門とするスウェーデンの科学者です。2015年、DNA修復のメカニズム研究で、アメリカの化学者ポール・モドリッチ、トルコの化学者アジズ・サンカルと共同でノーベル化学賞を受賞しました。

経歴

リンダールはスウェーデン生まれで、分子生物学や生化学の分野で長年にわたり研究を行ってきました。1978年から1982年までヨーテボリ大学の医化学の教授を務め、その後イギリスに渡り、1981年にImperial Cancer Research Fund(現Cancer Research UK)に研究員として参加しました。1986年からは、ハートフォードシャーにあるCancer Research UKのクレア・ホール研究所の初代所長を務め、研究所は後に2015年からフランシス・クリック研究所の一部となっています。

主な業績 — DNA修復の解明

リンダールの最大の貢献は、DNAが単に安定な遺伝情報の倉庫ではなく、化学的に壊れやすい分子であることを示し、その損傷を修復する細胞内機構の存在と仕組みを明らかにした点にあります。特に以下の点が重要です。

  • DNAの自発的変化の発見:DNA塩基は水解や脱アミノ化などの化学反応により自然に変化しやすく、そのままでは遺伝情報に誤りが生じることを示しました。
  • 塩基除去修復(Base Excision Repair, BER)の解明:損傷した塩基を特異的に切り出す酵素(DNAグリコシラーゼなど)と、その後の切断・修復を行う酵素群の存在を同定し、BER経路の分子機構を詳しく解析しました。リンダールの研究は、種々の小規模な塩基損傷(酸化やアルキル化など)に対する主要な修復経路としてのBERの概念を確立しました。
  • 修復酵素の同定と機能解析:個々の酵素の働きや相互作用を分子レベルで解析し、どのようにして損傷が認識され、切除され、正しい配列に戻されるかを説明しました。

ノーベル賞と他の修復機構との関係

2015年のノーベル化学賞は、DNA修復という広い分野の理解に決定的な貢献をした3人に贈られました。リンダールは主に塩基除去修復を、ポール・モドリッチはミスマッチ修復(Mismatch Repair)、アジズ・サンカルはヌクレオチド除去修復(Nucleotide Excision Repair)の機構解明にそれぞれ大きく貢献しました。これらは互いに補完し合い、細胞が多様な種類のDNA損傷から遺伝情報を守る仕組みを形作っています。

受賞・栄誉と評価

英国王立協会が彼をフェローに選出したことは、彼の業績が高く評価されていることの一例です。リンダールはノーベル賞以外にも多くの学術的栄誉を受け、がん研究や分子生物学の分野において国際的に影響力のある研究者として知られています。

影響と意義

リンダールの研究は基礎科学としての価値が高いだけでなく、臨床応用への道も開きました。DNA損傷と修復の理解は、がんの発生メカニズム、老化、環境・化学物質による変異の評価、さらには修復機構を標的にした治療法(例:PARP阻害薬など)や診断法の開発に重要な示唆を与えています。彼の業績は現代の分子生物学と医学研究の基盤の一つとなっています。