ニールス・ステンセン(ニコラウス・ステノ、1638–1686)デンマークの科学者で、解剖学地質学の先駆者である。若い頃から解剖学や生物学の研究に才を示し、化石の正体がかつて考えられていたような「岩の中で自然に生成された物」ではなく、生物の遺骸やその痕跡であることを示した。晩年にはカトリックの司教となり、宗教的な活動に専念した時期もあったが、その科学的業績は後世の地質学と古生物学に決定的な影響を与えた。

ステノは観察と比較解剖の手法を用いて化石の起源を研究した。特に「舌石(glossopetrae、のちにサメの歯と判明)」の研究は有名で、これにより化石がかつて生きていた生物の一部であると結論づけた。こうした洞察は当時広く信じられていた自然観に疑問を投げかけ、地球の過去の出来事を物質的な痕跡から復元するという近代的な考え方の出発点となった。

地質・層序

ステノは1669年に出版した著作De solido intra solidum naturaliter contento dissertationis prodromus(通称「プロドロムス」)の中で、層序学(stratigraphy)の基本原理を明確に示した。ここでの原理は簡潔だが、その後の地質学の発展にとって基礎的な役割を果たした。主な原理を現代的な用語で整理すると次のとおりである。

  1. 重ね合わせの法則(Law of Superposition):未変形の堆積層では、下にある地層ほど古く、上にある地層ほど新しい。
  2. 本来の水平性の原理(Principle of Original Horizontality):堆積物はおおむね水平に沈積するため、傾斜した地層は堆積後に変形を受けたことを示す。
  3. 連続性の原理(Principle of Lateral Continuity):堆積した地層は、途切れがなければ横方向にも連続して広がる。ただし、堆積源や地形の変化、侵食などで途切れる場合がある。
  4. 上載物の流動性に関する原理:ある地層が形成されるとき、その上にある物質は流動的(堆積物として動きうる状態)であり、下位の地層が固まってから上位の地層が堆積したことを示す。つまり、堆積の順序から相対的な年代関係を読み取ることができる。

これらの原理により、地層や化石の配置から地質学的な時間順序や過去の環境を推定する方法が確立された。ステノの考え方は現在でも層序学の基礎を成しており、海底の堆積、隆起、浸食、水没のサイクルを繰り返すというジェームズ・ハットンらの理論(後の均一主義や近代地質学)にも重要な示唆を与えた。

まとめると、ニールス・ステンセン(ニコラウス・ステノ)は化石が生物由来であることを示し、層序(stratigraphy)の基本原理を明文化して近代地質学と古生物学の基礎を築いた人物であり、「層序学の父」と称されることが多い。彼の方法論――注意深い観察、比較解剖、物理的な原理に基づく解釈――は現在の地層解釈や地史復元にそのまま受け継がれている。