カラビ・ヤウ多様体とは?定義・性質と超弦理論・ミラー対称性の概説
カラビ・ヤウ多様体の定義・性質を分かりやすく解説。超弦理論やミラー対称性との関係まで最新知見で徹底ガイド。
カラビ・ヤウ多様体、または「カラビ・ヤウ空間」は、特殊なタイプの多様体であり、複素幾何学と微分幾何学の交差する重要な対象です。もともと代数幾何学などの数学の分野で研究されてきましたが、その持つ特殊な性質が理論物理学、特に超弦理論への応用を生み出しました。
定義(簡潔に)
カラビ・ヤウ多様体は、次の(同値な)条件を満たすコンパクトな複素多様体と定義されることが多いです。
- 複素次元 n のカラビ・ヤウ多様体は、カラビ条件として第一チャーン類 c1 = 0 を持つ(すなわち正則部分の反正規束が自明で、正則な至る所消えないホロノミック n-形式を持つ)。
- あるいは、カラビ・ヤウ多様体は複素構造下での可微分多様体で、Kähler 多様体かつカノニカル束が自明である、と表現されることもあります。
- 微分幾何学的には、縮退しないリッチ曲率を持たない(リッチ曲率=0)のKähler計量が存在し、そのホロノミー群が SU(n) に含まれることが特徴です。
基本的性質
- リッチ平坦性(Ricci-flat):カラビの予想を証明したシャウ(Yau)の定理により、与えられたKähler類ごとに一意的なリッチ曲率ゼロのKähler計量が存在します。これにより「リッチ平坦性」が保証されます。
- ホロノミーと保存するスピノル:ホロノミーが SU(n) であることは、可撓な平行なホロノミックスピノルを生み、物理的には超対称性(部分的保存)をもたらします。
- ホロモルフィックな体積形式:非自明な至る所非零のホロノミック n-形式(複素次元 n の場合)が存在し、これがカノニカル束の自明性を示します。
- ホッジ数とトポロジー:Hodge 数 h^{p,q}(特に h^{1,1} と h^{n-1,1})が多様体の変形・モジュライ空間と深く関係します。3次元(複素次元3)の場合、Euler 特性やホッジ数の組が重要な不変量です。
代表的な例
- K3面:複素次元2のカラビ・ヤウ多様体の代表例。ホロノミーは SU(2) で、幾何学的・数論的に豊かな構造を持ちます。
- 五次元双曲面(クイントリック):複素射影空間 CP^4 の中の一次多項式ではなく五次の超曲面(quintic threefold)は、最もよく調べられたカラビ・ヤウ3重多様体の例で、ミラー対称性の初期の発見にも中心的役割を果たしました。
- その他にもトーラスの分枝被覆や、代数幾何学的手法で作られる多様な構成(分枝被覆、対称積、鏡像対など)があります。
超弦理論での役割
カラビ・ヤウ多様体のリッチ平坦性や SU(n) ホロノミーは、超弦理論で余剰次元をコンパクト化する際に重要です。特に:
- 超弦理論の10次元時空を「4次元の大きな時空 × 6次元の小さな空間(カラビ・ヤウ三重多様体)」に分けることで、低エネルギーにおいて4次元で部分的に保存された超対称性が現れる可能性があります。これは、元の記事で述べたように 時空の余剰次元が6次元のカラビ・ヤウ多様体の形をとるという考え方に対応します。
- 多様体の形(モジュライ)によって低エネルギーの物理定数や場のスペクトルが決まり、物理学者はこれを使ってモデル構築を試みます。モジュライ空間の特性は物理的な相互作用や質量生成に影響します。
- ホロモルフィック体積形式が存在するため、平行スピノルが保存され、超対称性の生成が可能になります。こうして得られる4次元理論は、部分的な超対称性を持つことが多いです。
ミラー対称性(概要)
ミラー対称性はカラビ・ヤウ多様体における非常に深い双対性で、あるカラビ・ヤウ多様体 X に対して「鏡像」Y が存在し、次のような性質の交換が起きます。
- 複素構造のモジュライ空間 ↔ Kähler(位相的)モジュライ空間:具体的には、3重多様体では h^{1,1}(X) と h^{2,1}(Y) が入れ替わります。
- 幾何学的問題の対応:X 上のホロモルフィック曲線の計数(列挙幾何学、Gromov–Witten 不変量)は鏡像 Y 上の複素幾何学的データ(変分ホッジ構造やピカール・ファン)に対応し、難しい列挙問題が鏡像側で解釈されることで計算可能になることが示されました。
- 物理的には、ミラー対称性は A-模型(シンプレクティック側)と B-模型(複素側)の対応を与え、トポロジカル弦理論における計算を相互に変換します。
- SYZ(Strominger–Yau–Zaslow)予想:ミラー対称性を幾何学的に説明する試みとして、カラビ・ヤウ多様体はある極限で T^n (例えば n=3 のトーラス)繊維化を持ち、それを双対化することで鏡像が得られるというアイデアがあります。これは現在も活発に研究されています。
補足・歴史的背景
- 「カラビ・ヤウ」の名称は、推測(Calabi)が与えた条件(カラビ予想)と、それを厳密に証明した数学者サイモン・ヤウ(S.-T. Yau)に由来します。ヤウの定理により、与えられたカラビ条件下でリッチ曲率ゼロのKähler計量が存在することが保証されます。
- 数学と物理の双方で非常に豊かな理論が展開されており、位相的・代数的性質の解明、モジュライ空間の構造、ミラー対称性の厳密化、ストリング理論における現象の理解など多岐にわたる研究が続いています。
まとめ
カラビ・ヤウ多様体は、複素幾何学的性質(カノニカル束の自明性、ホッジ数)と、微分幾何学的性質(Kählerかつリッチ平坦、SU(n)ホロノミー)を併せ持つ対象であり、その特殊性が超弦理論のコンパクト化やミラー対称性の発見・発展に大きく寄与しました。理論物理学と純粋数学をつなぐ重要な橋渡しとして、現在も活発に研究されている分野です。

6次元カラビ・ヤウ・クインティック多様体の2次元スライス。
質問と回答
Q: カラビ・ヤウ多様体とは何ですか。A: カラビ・ヤウ多様体は代数幾何学で記述される特殊なタイプの多様体です。
Q: カラビ・ヤウ多様体の性質は何ですか?
A: カラビ・ヤウ多様体の性質にはリッチ平坦性が含まれます。
Q: カラビ・ヤウ多様体の性質はどのような応用がありますか?
A: カラビ・ヤウ多様体の性質は理論物理学に応用できます。
Q: 時空の余剰次元はどのような理論において6次元カラビ・ヤウ多様体の形をとるのでしょうか?
A: 超弦理論では、時空の余剰次元は6次元のカラビ・ヤウ多様体の形をとるかもしれません。
Q: 超弦理論のミラー対称性とは何ですか?
A: 超弦理論のミラー対称性の考え方は、時空の余剰次元が6次元のカラビ・ヤウ多様体の形をとるかもしれないという事実から来ています。
Q: カラビ・ヤウ多様体に関係する数学の分野は?
A: カラビ・ヤウ多様体は代数幾何学などの数学のある分野で説明されている。
Q: カラビ・ヤウ多様体は理論物理学とどのように関係しているのですか?
A: カラビ・ヤウ多様体の性質は理論物理学、特に超弦理論に応用されています。
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