シャクガ科(Geometridae)は、鱗翅目(りんしもく)の蛾の大家族で、世界に23,000種以上が記載されています。ほとんどが夜行性で、日中に見られる種はごくわずかです。
イマゴ(成虫)の翼長は一般に10ミリから70ミリ程度まで幅があります。翅の模様や色は保護色・擬態に優れ、樹皮や葉に擬態して休む姿がよく知られています。
イモムシの動きは独特で、腹脚(腹中ほどの脚)が退化しているため、体を折り曲げて前方へ伸ばし、後部を引き寄せる「ペンギンのような」または「地球を測る(インチ)」ような歩様を示します。このため幼虫は英語で「inchworm(インチワーム)」、日本語でも「尺取虫(しゃくとりむし)」と呼ばれます。
よく知られているのは、コナガ(※注:コナガはシャクガ科ではなくプルトレラ科〈Plutellidae〉に属する別種であり、混同に注意)が挙げられます。一方で、シャクガ科の中でも有名な種としては、工業暗化(industrial melanism)の研究で知られるBiston betulariaなどがあります。多くの種が害虫に分類され、農林業や園芸で被害を与えることがあります。
形態的特徴
- 成虫:細長い体に幅広い翅を持ち、休むときには翅を平らに広げて止まる種が多い。触角は雌雄で形が異なることがあり、雄は羽毛状のものが多い。
- 幼虫:腹脚が少なく、体を折りたたむ「尺取」様の歩行。体色は地味で、枝そっくりや葉の縁に似せる擬態が発達している。
- 蛹:多くは土中や落ち葉、樹皮の隙間などで静止化して越冬する。
生態と生活史
- 発生周期:種や地域によるが、年に1~数回発生するものがある。気候条件で世代数が変わる。
- 食性:幼虫は多くが葉を食べる葉食性で、宿主植物は種ごとに幅広く、落葉樹や常緑樹、草本まで多様。
- 生息環境:森林、草地、農地、都市の植栽など幅広い環境に適応。
- 擬態と天敵回避:幼虫は枝に擬態して捕食者を避け、成虫も翅の模様でカモフラージュする。
人間との関わり(害虫性と有益性)
- シャクガ科の中には、葉を大量に食害して生長を妨げる農林業害虫が多数含まれる。樹木の若葉や果樹、作物の葉を集団で食べることで被害が発生する。
- 一方で、生態学の研究対象として重要な種も多く、進化や擬態、環境適応の研究に寄与している例がある(例:Biston betulariaの工業暗化)。
主な防除対策(農林・園芸向け)
被害を抑えるためには、単一の方法に頼らない総合的防除(IPM)が有効です。主な対策を列挙します。
- モニタリング:定期的に葉裏や幼虫の発生を確認し、被害初期に気づく。定点観察やトラップを用いる。
- 文化的防除:耕種的対策(被害枝の剪定・除去、越冬世代の除去)、多収穫や栽培密度の調整などで発生を抑える。
- 生物的防除:寄生蜂や捕食者の利用、微生物農薬(例:Bacillus thuringiensis〈BT〉)は幼虫に効果的で、環境負荷が比較的小さい。
- 性フェロモントラップ:成虫の誘引による発生把握や個体数低減に有効な場合がある。
- 化学防除:発生密度が高い場合は登録された殺虫剤を使用する。薬剤選択と使用時期・希釈率に注意し、非標的生物への影響を最小限にする。
園芸者・農家への実用的アドバイス
- 若齢幼虫はBT製剤で比較的簡単に防除できるため、早期発見が重要。
- 夜間に活動する成虫をターゲットにしたライトトラップやフェロモントラップで発生傾向を把握する。
- 自然天敵(クモ、寄生蜂など)を尊重するため、広範囲の不特定殺虫は避け、必要最低限の使用にとどめる。
- 年間を通した園内清掃(落ち葉や古枝の除去)は越冬蛹を減らす効果がある。
まとめると、シャクガ科は形態・生態的に多様で、自然界では擬態や生態的関係の研究対象として重要な一方、農林業や園芸では被害を引き起こす種もいるため、発生状況に応じた早期発見と総合的防除が鍵となります。


