AONB(優れた自然美観地域)とは:英・ウェールズ・北アイルランドの景観保護制度
AONB(優れた自然美観地域)の目的と歴史、指定制度、主要地域別の特徴を分かりやすく解説するガイド。
AONB(Area of Outstanding Natural Beauty)とは、イングランド、ウェールズ、または北アイルランドで景観的に重要な価値を持つと考えられている田園地帯の地域のことです。ナチュラル・イングランド(Natural England)がイギリス政府に代わって指定しています。かつてはウェールズでの指定や管理にCountryside Council for Wales(ウェールズカントリーサイド評議会)が関わっていましたが、現在は組織改編により、ウェールズでは政府(Welsh Government)やNatural Resources Walesなどが関与しています。北アイルランドでは北アイルランド環境庁(Northern Ireland Environment Agency)が指定・管理に関わっています。
指定の目的と法的根拠
AONB指定の主な目的は、景観の「自然の美しさ(natural beauty)」を保存し向上させることです。これには以下の要素が含まれます。
- 景観保全:地形、景観の特徴、歴史的景観、野生生物の生息地などを保護すること。
 - 生活と経済の配慮:地域で暮らし働く人々の利益や農林業・地元経済の必要性を考慮すること。
 - 公共の利用:静かなレクリエーションや自然観察など、田園地帯の楽しみを支えること。
 
法的には、AONBは主にNational Parks and Access to the Countryside Act 1949に基づいています(その後の改正や関連法規で実務が補強されています)。また、多くの国で行われるように、地域ごとに管理計画(management plan)が作成され、具体的な保全・管理方針が定められます。
国立公園(National Parks)との違い
- 法的権限:国立公園には独自の公的機関(国立公園局)があり、土地利用や開発の決定に対して強い影響力と特別な計画権限を持つことが多いのに対し、AONBは原則として既存の地方計画当局(local planning authorities)が土地利用許可を行います。
 - 目的:両者とも景観保全が目的ですが、国立公園は「自然保護」「景観」「コミュニティの福祉」「教育とレクリエーション」など広範な公的任務を持つのが一般的です。AONBは景観の保全を主眼に置きつつ、地域の経済や生活を配慮します。
 - 認知度と管理体制:国立公園はAONBよりも一般的に知名度が高く、独自の行政機構を持つために一貫した管理が行いやすい一方、AONBはパートナーシップ(地方自治体、NPO、農業団体など)による協働で管理されることが多いです。
 
数と規模(概略)
イングランドには35のAONB、ウェールズには4つ、イングランドとウェールズの両方にまたがる1つ(ワイバレー)、北アイルランドには9つのAONBがあります。最初のAONBは1956年にウェールズ南部のガワー半島に与えられました。最も最近確認されたのは1994年のTamar Valley AONBです。
規模の例としては、最も小さいAONBはスキリー諸島(1976年)で16km2(6.2平方マイル)、最も大きいAONBはコッツウォルズ(1966年)で2,038km2(787平方マイル)です。イングランドとウェールズのAONBを合わせると、両国の田園地帯の約18%を占めるとされています。
管理組織と資金
AONBの管理は一つの「全能な」機関が行うわけではなく、複数の主体による協働が基本です。典型的な関係者は次の通りです。
- 国(Natural England、Welsh Government、Northern Ireland Environment Agencyなど)— 指定・助言・資金支援。
 - 地方自治体(county council、district councilなど)— 計画決定や地元支援の実務。
 - AONBパートナーシップ/協議会— 管理計画の作成・実施、地域住民や団体との調整。
 - NGO・ボランティア団体・土地所有者— 生物多様性保全や訪問者対応、維持管理活動を担う。
 
資金源は国からの助成金、地方自治体の拠出、コンサベーション基金やプロジェクト助成、民間寄付などが組み合わさります。近年は公的資金が厳しくなり、地域の自主的な資金調達やパートナーシップの重要性が高まっています。
主な保全活動と利活用
- 自然保護:生息地の復元、希少種の保護、干潟・草地・古木の管理。
 - 農林業支援:持続可能な農法や放牧管理、アグリ・エンバイロメント(助成)スキームとの連携。
 - 歴史景観の保全:伝統的な石垣、農業景観、文化的遺産の保全。
 - レクリエーション管理:遊歩道やアクセスの整備、訪問者への情報提供、過剰利用の抑制。
 
課題と対策
- 開発圧力:住宅需要やインフラ整備に伴う景観破壊。対策としては厳格な計画審査や景観評価の導入が必要です。
 - 資金不足:保全事業の継続性が危ぶまれるため、地域主導の資金調達や新たな支援制度の活用が求められます。
 - 気候変動:沿岸侵食、洪水、植生の変化などへの対応として、適応策や生態系ベースの管理が重要です。
 - 観光と保全の両立:訪問者管理・教育の強化、コミュニティ参加型の観光計画が有効です。
 
訪問時の心がけ・地域でできること
- 指定地域では地元の規則や案内に従う(駐車、キャンプ、犬の管理など)。
 - 地元のビジターセンターやウェブサイトで最新情報や推奨ルートを確認する。
 - 地域の保全団体に参加・寄付する、地元産品を購入して経済を支える。
 - ゴミは持ち帰り、自然や文化遺産を尊重する。
 
AONBは単に「景色が良い場所」というだけでなく、地域社会・農林業・生物多様性・レクリエーションが複雑に絡み合うエリアです。保全と利活用のバランスを取りながら、将来世代にも豊かな風景を残すことが求められています。
 

すべてのAONBsの地図
質問と回答
Q:傑出した自然美を誇る地域(AONB)とは何ですか?
A: AONBはイングランド、ウェールズ、北アイルランドにある景観的に重要な価値を持つと考えられる田園地帯のことです。英国政府、ウェールズ政府、北アイルランド政府によって、自然の美しさを保全・向上させることを目的に指定されています。
Q: AONBはいくつあるのですか?
A: イングランドに35ヶ所、ウェールズに4ヶ所、イングランドとウェールズにまたがる1ヶ所(ワイバレー)、北アイルランドに9ヶ所のAONBがあります。
Q: 最初のAONBはいつ認定されたのですか?
A: 最初のAONBは、1956年に南ウェールズのガウアー半島に与えられました。
Q:最小のAONBはどこですか?
A:最小のAONBは、シリー島(1976年)で、16 km2 (6.2 sq mi)です。
Q: 最も大きなAONBはどこですか?
A: 最大のAONBは、コッツウォルズ(1966年)で、2,038 km2 (787 sq mi)です。
Q: イングランドとウェールズのAONBを合わせると、どれくらいの面積になりますか?
A: イングランドとウェールズのAONBを合わせた面積は、全土の約18%です。
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