『ホフマン物語(Les contes d'Hoffmann)』—オッフェンバックの代表的フランス・オペラ解説
『ホフマン物語』の魅力を解説:オッフェンバックの代表作、原作や制作背景、楽曲と上演史を詳述する入門ガイド。
ホフマン物語』(Les contes d'Hoffmann)は、フランスのオペラである。物語はプロローグ、3幕、エピローグから成り、音楽はジャック・オッフェンバックによる。リブレットはジュール・ベルビエとミシェル・カレが担当し、原作はE.T.A.ホフマンの諸短編(代表作に「砂男」など)に求められる。1881年2月10日、パリで初演された。
この作品はオッフェンバックの晩年の大作であり、彼の最も重要な舞台作品の一つと評価される。作曲家は制作途中の1880年に他界したため、完成作業は弟子のアーネスト・ギローによって引き継がれた。ギローは未完成部分の管弦楽法の整理とともに、当初意図されていた話し言葉のダイアローグに代わるレチタティーヴ(オペラ用のつなぎの歌唱)を加えたが、作品の上演史においてはその後もさまざまな補筆や編曲が行われている。初演以来、優れた音楽性と幻想的なドラマ構成で広く愛され、現在でも頻繁に上演される古典的レパートリーである。
構成とあらすじ(概略)
全体は回想物語の形式をとり、主人公ホフマン(詩人)が自らの三つの恋の挫折を語ることで進行する。各幕は異なる恋と幻想の物語を描き、そこに同一の敵役が別の変装で現れるという趣向が取られる。
- プロローグ/エピローグ:舞台は酒場やサロンなど。ホフマンが自らの恋の顛末を語り、相棒のニクラウス(あるいはムーゼの化身)が彼を見守る場面で枠組みが示される。
- 第1話(オランピア):発明家の娘オランピアは実は人形(オートマトン)で、ホフマンはその真実に気づかず恋に落ちる。色彩豊かなワルツや華やかなアリアが特徴。
- 第2話(アントニア):病弱な歌手アントニアは歌うことを禁じられているが、芸術への情熱にかられて悲劇的な結末を迎える。ここでは歌唱の美と死のイメージが強調される。
- 第3話(ジュリエッタ):ヴェネツィアを舞台にした物語で、ジュリエッタは魅惑的な女。ここでは欺瞞と幻惑がテーマとなり、有名なバルカロール(舟歌)が登場する。
主な登場人物(典型的配役)
- ホフマン(テノール)— 詩人、語り手
- ニクラウス/ムーゼ(メゾソプラノまたはカウンタルト)— ホフマンの友、芸術の化身
- リンドルフ/コッペリウス/ドクター・ミラクル/ダペルトゥート(バリトン)— 各幕に現れる敵役(通常一人の歌手が複数の役を演じる)
- オランピア(ソプラノ、色彩のあるコロラトゥーラ)
- アントニア(ソプラノ)
- ジュリエッタ(ソプラノまたはメゾ)
音楽的特徴と見どころ
作品はオッフェンバックならではの旋律美と舞台的センスを備えつつ、幻想的・悲劇的要素を強く打ち出しているのが特徴である。特に次のような聴きどころがある:
- バルカロール「Belle nuit, ô nuit d'amour」:第3幕の舟歌で、しばしばオペラ全体の最も有名な場面として取り上げられる。美しい二声・三声の組み合わせと色彩的なオーケストレーションが印象的。
- オランピアのアリア「Les oiseaux dans la charmille」等:高音の技巧を要するコロラトゥーラ・アリアで、機械的な人形の性格を音楽で表現する場面。
- アントニアの情熱的で悲痛な歌唱:作中で歌唱の力とそれがもたらす破滅が強調される。
- 総合的な編曲と管弦楽法:軽妙な音楽から深いドラマ性を伴う重厚な場面まで幅広く扱う。
版と上演史の注意点
オッフェンバック自身が完成させていなかったこと、また当時の上演慣行(話し言葉のダイアローグの使用など)もあって、成立後は多くの編集や補筆が行われてきた。最も知られる補筆者はアーネスト・ギローで、彼の版は長く標準版として用いられた。その後も、原典に近づけようとする復元版や、上演上の都合で場面順序やダイアローグ/レチタティーヴの扱いを変えた版など、多くの異なる版が存在する。これが本作の上演に多様性を与え、演出家や指揮者ごとに異なる解釈が可能になっている。
影響と評価
『ホフマン物語』は、19世紀フランス・オペラの中でも幻想性と風刺性を併せ持つ重要作として評価される。主題の多面的扱い、音楽のバラエティ、役の配役の柔軟性(特に敵役を一人の歌手が演じる伝統)などが、今日のオペラ・レパートリーにおける魅力となっている。録音・映像・舞台公演ともに多く残されており、版や配役、演出によって異なる顔を見せる作品である。
上演や聴取に際しては、採用される版(ギロー補筆版か原典重視の版か)、各幕の順序、また話し言葉の扱いなどが演出や上演時間に大きく影響する点に留意すると良い。初心者には有名なアリアやバルカロールを中心に聴き、本格的には異なる版の録音・上演を比較してみることをおすすめする。
主な登場人物
- ホフマン - テノール
- オリンピア - ソプラノ
- アントニア - ソプラノ
- ジウレッタ - ソプラノ
- Stella - ソプラノ
- Dr.ミラクル - ベース
- Dapertutto - ベース
- コッペリウス - ベース
- リンドルフ - ベース
- ニクラウス - メゾソプラノ
- スパランツァーニ(テノール
- ソプラノ4役は、2人のキャラクターの異なる側面を表現しているので、バス4役と同じ歌手が歌うのが理想的です。
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