「レズビアン・キス回」は、テレビドラマやバラエティなどのメディアで見られる表現のひとつで、主に一話限りのエピソードで女性同士のキスや性的示唆が描かれるものを指す。典型的には、普段は異性愛者の、あるいは性的志向が明確にされている別の女性キャラクターが、一時的にレズビアンやバイセクシュアルの可能性が示唆される相手とキスを交わす――しかしその後に関係性の継続や設定の変更がほとんど行われず、当該キャラクターが再登場しないか、性的指向が元に戻ることが多い、というパターンを指す。

起源と代表的な始まり

このトロープが注目を集め始めたのは1990年代で、しばしばその出発点として挙げられるのが1991年放送のアメリカのドラマ、「L.A. Law」のエピソード「He's a Crowd」である。そこではC.J.ラムとアビー・パーキンスがキスを交わし、当該エピソードの脚本はデヴィッド・E・ケリーが手がけた。デヴィッド・E・ケリーは同じアイディアを少なくとも他の複数の番組でも使用しているとされ、以降の90年代〜2000年代のテレビでは、単発の「キス回」が繰り返し現れるようになった。

典型的なパターンと目的

  • 単発性:キスや示唆はエピソード内に限定され、長期的な恋愛関係やキャラクターの性的指向の継続的描写にはつながらない。
  • 話題性・視聴率狙い:放送局や制作側が一時的な注目や論争を呼び込むために用いることがある。
  • 曖昧さの利用:レズビアンやバイセクシュアルといったラベルを明確にせず、視聴者の関心を引くために関係性を曖昧に保つ場合がある(いわゆる「クイアベイティング」に近い手法)。

影響と批判

このトロープは、短期的にLGBTQ+の存在をスクリーン上に示したという点で可視化の側面を持つ一方で、深刻な批判も受けている。主な問題点は次のとおりである。

  • 表面的・性的対象化:女性同士のキスが主に男性視聴者向けの性的ファンサービスとして扱われることがあり、当事者の現実の経験や関係性が軽視される。
  • 持続性の欠如:一回限りの演出で終わるため、継続的なクイアの登場人物やリアルな描写が増えない。
  • クイア表象の歪み:バイセクシュアルやレズビアンの存在を消してしまう「バイ消失(bi erasure)」や、クイアキャラクターが悲劇的な結末を迎える「Bury Your Gays」といった問題と結びつくことがある。
  • クイアベイティング:制作側が商業的理由で曖昧な描写を使い、実際には関係性を発展させないケースは、視聴者(特にクイア当事者)を裏切るとの批判を受ける。

変化と改善の動き

近年は視聴者の意識向上とLGBTQ+当事者や活動家からの継続的な声により、単発の「キス回」だけで終わらない、より誠実で多面的な描写が求められるようになってきた。具体的には:

  • クイアの登場人物を継続的な主要キャストとして据える作品が増えた(深い人間描写や恋愛関係が丁寧に描かれる)。
  • クイアの製作者や脚本家、監督を起用して当事者視点を反映しようとする動きがある。
  • 視聴者やメディアによる表象の検証(批評)が活発化し、製作側がステレオタイプや搾取的表現を避ける圧力が強まっている。

視聴者ができること・制作側への提言

  • 見分け方:一話限りの扱いか、継続的な人物描写や関係性の深化があるかで「キス回」的な意図を見分けられる。
  • 支持の方法:真摯なクイア表象を行う作品や当事者制作者を積極的に支持(視聴、SNSでの拡散、レビュー)することで良い表現を促せる。
  • 建設的な批評:単なる非難ではなく、なぜ不十分なのかを具体的に示すレビューや議論は、改善を促す上で有効。
  • 制作側への提言:クイアキャラクターを単なる「話題作り」の道具にしない、当事者の声を取り入れる、関係性の継続性と多様性を描くことが重要。

まとめると、レズビアンのキス回トロープは歴史的にテレビにおけるクイア表象の一側面を担ってきたが、その多くは表面的で持続性に欠けるため批判も多い。一方で、表象に対する社会的な目が厳しくなるにつれて、より誠実で多様な描写へと向かう兆しも見えている。