マトリックス力学(行列力学)とは:起源・定義・不確定性原理
マトリックス力学(行列力学)の起源・定義・歴史を解説し、ハイゼンベルグの不確定性原理と応用までわかりやすく紹介。
マトリックス力学は、物理学者が量子物理学を数学的に表現する最初の方法の一つです。ヴェルナー・ハイゼンベルグは、当初、物理学の法則を数学的に表現するこの形式を、水素スペクトルの様々なバンドの光子の強度を予測するための方程式として考案しました。


ハイゼンベルクの師匠であり同僚でもあるマックス・ボルンは、彼の方程式が本質的に行列の作成と乗算の計画であることを見抜き、ボルンとパウル・ヨルダンとともに行列形式を体系化しました。量子物理学の行列形式は、ある目的には非常に都合がよく、現在でも多くの場面で使われています。他の数学的な方法、特に波動関数を用いたエルヴィン・シュレーディンガーの方程式は、数学的には同等ですが、扱いやすさや直観の面で異なる利点があります。
起源と歴史的背景
マトリックス力学は1925年にハイゼンベルクが出発点を作り、間もなくボルンとヨルダンが行列の言葉で厳密化しました。これにより、物理量(エネルギー、位置、運動量など)を数値ではなく行列(あるいは線形演算子)として扱う新しい枠組みが確立されました。その後、シュレーディンガーの波動力学(1926年)やディラックの変換理論と融合・発展して、今日の標準的な量子力学の多様な表現(ハイゼンベルク表示、シュレーディンガー表示、ディラック表示)が成立しました。
基本的な定義と概念
- 物理量は行列(演算子)として表される。観測可能量はエルミート(自己共役)な行列で、その固有値が測定で得られる値になります。
- 状態はベクトル(状態ベクトル)で表す。ある基底に対する成分はその状態の行列要素になります。行列要素や固有状態の重ね合わせによって確率振幅が与えられます。
- 演算子の乗算は一般に可換ではない。すなわち AB ≠ BA が普通であり、この非可換性が量子的な特徴を生みます。
- 時間発展の扱い。ハイゼンベルク表示では状態ベクトルが時間に対して固定され、演算子が時間発展します(演算子の時間微分はハイゼンベルクの運動方程式で与えられる)。
行列力学とシュレーディンガー方程式の同値性
行列力学と波動力学(シュレーディンガーの方程式)は数学的に同値です。両者は異なる表現(表示)を与えるだけで、物理的な予測(スペクトル、遷移確率、期待値など)は一致します。行列力学は固有状態や遷移行列要素を直接扱うのに適し、波動力学は空間・時間依存性を視覚的に扱いやすいのが特徴です。
不確定性原理(ハイゼンベルクの不確定性関係)
行列力学の重要な結果の一つが不確定性原理です。これは演算子の非可換性から直接導かれます。一般に二つの可観測量 A, B の標準偏差を ΔA, ΔB とすると、次の関係が成り立ちます:
ΔA · ΔB ≥ (1/2) |⟨[A, B]⟩|
ここで [A, B] = AB − BA は交換子、⟨...⟩ は期待値を表します。特に位置 x と運動量 p の交換関係が [x, p] = iħ(ħ は換算プランク定数)であることから、
Δx · Δp ≥ ħ/2
が得られます。これは「位置と運動量を同時に任意精度で測ることはできない」ことを定量的に示す関係です。不確定性原理は測定の限界を示すだけでなく、量子系の基礎的性質(波動性と粒子性の両立)を反映しています。
数学的道具立て(概略)
- 行列要素 A_{mn} は基底状態 |m⟩ と |n⟩ の間の遷移や期待値に対応します。
- 固有値問題 A|ψ⟩ = a|ψ⟩ により測定可能な値 a(実数)と対応する固有状態が得られます。
- 期待値は ⟨A⟩ = ⟨ψ|A|ψ⟩ で与えられ、時間発展や摂動論も行列演算を通じて扱えます。
代表的な応用と意義
行列力学は原子スペクトルの説明(遷移確率や線強度の計算)に端を発し、その後量子化学、場の理論、固体物理、量子情報など幅広い分野で基礎的道具として用いられています。非可換代数という新しい数学的観点を物理に導入した点が、概念的にも大きな意義を持ちます。
まとめ
マトリックス力学は、物理量を行列(演算子)として扱うことで量子現象の本質を直截に表現する理論形式です。シュレーディンガーの波動力学と同等でありながら、非可換性に基づく不確定性原理など固有の直観を与え、現代の量子理論の基盤を成しています。これにより古典力学とは異なる新しい世界観と計算手法が確立されました。なお、この理論的発展にはハイゼンベルク、ボルン、ヨルダンらの貢献が非常に大きく、その成果が今日まで受け継がれています(不確実性原理の初期の成功例はのちにハイゼンベルグの不確実性原理として知られるようになりました)。
質問と回答
Q:マトリックスメカニクスとは何ですか?
A:マトリックス力学とは、ヴェルナー・ハイゼンベルグが開発した物理法則の表現方法で、水素スペクトルの異なるバンドの光子の強度を行列を使って予測するものです。
Q:マトリックスメカニクスを開発したのは誰ですか?
A: ヴェルナー・ハイゼンベルグは、もともと水素スペクトルの異なるバンドの光子の強度を予測する方程式として、行列力学を開発しました。
Q:どのように発見されたのですか?
A:マックス・ボルンは、ハイゼンベルグ方程式が本質的に行列の生成と乗算の仕組みであることに着目し、行列力学の発見につながった。
Q:現在も使われているのでしょうか?
A:はい、マトリックス力学は、ある目的には便利で有用であるため、現在でも使われています。
Q:量子物理学を数学的に表現する方法は他にもあるのでしょうか?
A: はい、Erwin Schrödingerの波動関数を使ったErwin Schrödinger方程式は数学的に同等ですが、他の目的に使うにはこちらの方が簡単です。
Q:この理論の初期の成功例として、どのようなものがあったのでしょうか?
A:この理論に関連する初期の成功の1つが、今でいう「ハイゼンベルクの不確定性原理」です。
Q:この成功を開発後すぐに発表したのは誰ですか?
A: ヴェルナー・ハイゼンベルク自身が、開発直後にこの成功を発表しています。
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