ムサウルス(Mussaurus)とは — アルゼンチン出土の後期三畳紀小型竜脚類
ムサウルス(Mussaurus):アルゼンチン出土の後期三畳紀小型竜脚類。子竜の小骨格と成体の巨大化、進化的意義を詳しく紹介。
ムサウルス(「ネズミトカゲ」の意)は、約2億1500万年前の後期三畳紀に生息した初期の植物食の竜脚類である。アルゼンチン南部で発見された。名前の由来は、最初に発見された標本が非常に小さな幼体であったことから「ネズミのようなトカゲ」を意味する名前が付けられたためである。発見された幼体は大きな眼を持ち、体長はわずか9–16インチ(約18–37cm)程度と推定され、当初は非常に小さな恐竜として注目された。
その後の発掘により、ムサウルスは幼体だけでなく成体標本も知られるようになり、成体は全長およそ3m、体重は約70kg前後に達した可能性があることが示された。したがって「ネズミトカゲ」という和名は幼体に基づくものであり、成体の姿から見ると誤解を招く名前でもある。成長に伴う形態の大きな変化(オントジェネティック・チェンジ)は、この属の重要な特徴で、幼体は二足歩行的で機敏だったのに対し、成体では重心や四肢の構造が変わり四足歩行的な移動様式へ近づく傾向が示唆されている。
分類と進化的意義
ムサウルスは基盤的な竜脚形類(いわゆるプロサウロポド類)に位置づけられ、解剖学的特徴は真の竜脚類(サウロポダ)に近い、おそらく過渡的な進化関係を示唆するものと考えられている。頸や四肢の構造、骨格比率などは、長い首と大きな体をもつ後のサウロポダ類への進化を理解する手がかりを与える。
発見状況と生態
ムサウルスの化石は複数の個体がまとまって産出する例があり、幼体の集団(いわゆる「保育地」や「営巣地」)が見つかっていることから、ある程度の群れ行動や親による世話(保護行動)が行われていた可能性が指摘されている。また、当時の環境は河川や氾濫原といった場所が広がる温暖な地域であり、ムサウルスは低い植物を主に食べていた草食性(あるいは厳密には植物食優位)であったと考えられる。
研究の重要性
ムサウルスは、幼体と成体で著しく姿勢や生活様式が変わる例として、竜脚形類の成長や行動、生態を研究するうえで非常に重要な材料を提供している。特に、幼体の小ささと成体の大型化、二足歩行から四足歩行への移行といった変化は、巨大なサウロポダ類へ至る進化的経路を解明するうえで有益な情報となっている。
まとめると、ムサウルスは「ネズミトカゲ」という名前で知られるが、成体はかなり大型になり得る基盤的竜脚形類であり、集団生活や成長過程の研究を通じて初期恐竜の生態やサウロポダ類への進化を理解するための重要な鍵を握っている。


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