生態系サービスとは 定義と種類、経済価値から見る自然資本の重要性
自然界のサービスとは、自然が人間にもたらす恩恵のことです。ここで特に重要なのは、単に生態系が存在するという事実だけでなく、私たちの生活や経済活動に直接・間接に貢献する機能です。これらは食料や水といった物質的供給だけでなく、浄化や気候調節、景観や文化的価値など、多面的な価値を含みます。一般に経済的に測定できるものを中心に評価されることが多く、環境政策や企業の意思決定に取り入れられる際には金銭的価値に換算されることがあります。
ロバート・コスタンザをはじめとする自然資本の理論家たちは、1990年代に自然が人類にもたらすサービスの価値を体系的に分析しました。その代表的な研究の一つでは、世界の生態系サービスのうち主要な17種類を対象に評価を行い、年間で約33兆ドルに相当すると推定しました(当時の世界経済規模と同程度の大きさ)。この試算は、自然が提供する機能を人工的に代替・再現するために必要と想定されるコストや、サービスの受益を金銭換算する手法に基づいています。
こうした分析は、自然が経済活動と切り離せない「資本」であることを示す重要な指標となり、自然資本の保全・持続的利用の必要性を経済的観点から裏付けました。
生態系サービスの主な分類
- 供給サービス(Provisioning):食料、淡水、木材、医薬品原料など、直接的に採取・利用できる物的資源。
- 調節サービス(Regulating):気候の調節(炭素吸収)、水質浄化、洪水・沿岸侵食の緩和、病害虫の抑制など、リスクや環境条件を安定化させる機能。
- 文化的サービス(Cultural):景観美、レクリエーション、精神的・宗教的価値、教育や観光による経済的・社会的便益。
- 支持(基盤)サービス(Supporting):土壌形成、栄養循環、受粉といった、他のサービスを支える基礎的プロセス。
経済的評価の方法と用途
生態系サービスの価値を明らかにするためには、さまざまな評価手法があります。代表的なものは次の通りです。
- 代替コスト(Replacement Cost)や復旧コスト:自然機能を人工的に代替する費用を試算する方法。
- 支払意思額(Willingness to Pay):人々がそのサービスを維持・獲得するために支払ってもよいと考える金額を推定する方法(選好調査など)。
- 市場価格法や生産関数アプローチ:農産物や木材など市場で取引される財の価値から逆算する方法。
- 便益移転(Benefit Transfer):詳細調査が難しい場合に、既存研究の結果を別地域に適用する手法。
これらの評価は、環境影響評価、自然資本会計、政策決定(保全投資の優先順位付け、支払い制度の設計など)に利用されますが、手法ごとの前提や推定誤差に注意が必要です。
政策への影響と現状
上述の研究にも関わらず、この種の経済的評価が即座に政府の政策やWTO、IMF、G8の経済・貿易政策に決定的な変化をもたらしたわけではありません。背景には、評価方法の不確実性、自然サービスの公共財的性格、短期的な経済利益を優先する制度的慣行などがあり、政策転換の障壁となっています。
しかし近年では、自然資本会計や
批判と限界
- 金銭評価の限界:文化的・精神的価値や固有の生物多様性の価値は金銭に換算しにくく、換算によって重要な側面が見落とされる恐れがあります。
- 二重計上やスケール問題:サービス同士の重複や、地域スケールとグローバルスケールでの価値の適用に注意が必要です。
- 倫理的問題:市場メカニズムにすべてを委ねることへの反論や、貧困層・先住民の権利と利益配分の問題。
実務的な示唆—何をすべきか
- 評価とモニタリングの精緻化:空間データや長期モニタリングを活用して、生態系サービスの供給源と受益者を明確にする。
- 政策統合:国家会計や都市計画、農林水産政策に自然資本の指標を組み込む。
- 経済的インセンティブの活用:PESや環境税、補助金の見直しを通じて、持続可能な利用を促す。
- 多様な価値の尊重:金銭評価だけに頼らず、文化的・非金銭的価値も政策決定に反映する仕組みを整える。
まとめると、生態系サービスは単なる環境的“付属物”ではなく、社会・経済の基盤となる重要な資本です。経済的価値に換算することは政策や投資判断を分かりやすくする一手段ですが、その限界を理解し、多様な評価軸を併用することが実効的で持続可能な自然資本管理につながります。
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質問と回答
Q:「自然界のサービス」の定義は何ですか?
A:「自然サービス」とは、自然が人間にもたらす恩恵のうち、特に経済的に測定可能な恩恵のことを指します。
Q:1990年代に自然が人類にもたらすサービスを分析したのは誰ですか?
A: 1990年代にロバート・コスタンザをはじめとする自然資本の理論家たちが、自然が人類にもたらすサービスを分析しました。
Q:分析された17のサービスの経済的貢献度はどのように計算されたのでしょうか?
A: 17のサービスの経済的貢献は年間約33兆ドルで、人類経済全体の活動(約25兆ドル)を上回ると計算されました。
Q: 自然資本の理論家が、自然サービスの経済的利益を計算する際に行った比較は何ですか?
A: 自然資本論者は、自然が提供するサービスを人間が生産する同等のサービスに置き換えるための推定コストを比較し、自然サービスの経済的便益を算出しました。
Q:自然サービスの経済的便益を計算することで、何が明らかになるのでしょうか?
A:自然サービスの経済的便益を計算すると、自然サービスなしには人類は発展できないことが明らかになります。
Q:自然資本論は何を軸にしているのですか?
A:自然資本論は、自然サービスの経済的便益を中心とした理論です。
Q:自然サービスの経済的便益に関する研究は、政府の政策やWTO、IMF、G8の経済・貿易政策に大きな影響を与えたのでしょうか?
A:いいえ、自然サービスの経済効果に関する研究は、政府の政策やWTO、IMF、G8の経済・貿易政策に大きな影響を与えることはありませんでした。