自然資本とは?定義と生態系サービス(17項目)、経済的価値をわかりやすく解説
自然資本とは何かを17の生態系サービス別にわかりやすく解説。経済的価値や評価手法、事例で持続可能な資源管理を理解。
自然資本とは、地球の生物圏の鉱物、植物、動物の形成を通じて私たちに提供される、酸素の生産や水の浄化、浸食防止などのさまざまな機能・サービスを指す概念です。自然がもたらすこうした機能を「資本」(長期にわたって価値を生み出すストック)として捉えることで、自然環境が経済や人間の福祉に与える貢献をより明確に評価・管理することができます。これにより、自然は単なる原材料や消費される資源ではなく、持続的に価値を生み出す「資本」として位置づけられます。
伝統的な生産要素の経済分析では、自然資本は多くの場合「土地」と同一視され、人工的に作られる「資本」(機械や建物など)とは区別されてきました。初期の経済学についての議論では「土地」は自然そのものと見なされ、「資本」は人間が作るものに限られるという見方が主流でした。しかし実際には、自然が提供するサービスは長期的に価値を生み出すという点で資本と同様であり、経済活動や社会の安定に不可欠です。
ロバストな議論の一例として、ロバート・コスタンザらによる研究では、自然がもたらす主要なサービスを体系的に整理し、経済的価値を試算する試みが行われました。こうした視点は、従来の「人間中心の天然資源」観に代わる、生態系評価へのアプローチを提供します。つまり、すべての生命や生態系プロセスを単なる天然資源として受動的に扱うのではなく、自然の機能そのものを評価・保全することを重視します。
生態系サービス(17項目)
以下は、自然が私たちに提供する代表的な生態系サービスの項目(17項目)と、その簡単な説明です。
- 食料の生産:農作物、畜産、漁業など、食料供給を支える機能。
- 原材料の供給:木材や繊維、建材などの原料。
- 遺伝資源:品種改良や生物多様性を通じた遺伝資源、将来の利用価値。
- 観賞・装飾資源:園芸植物や観賞用生物がもたらす価値。
- 医薬資源:薬の原料となる天然物質や生物由来化合物。
- ガスの調節:大気中の酸素や二酸化炭素のバランス調整(例:光合成による酸素供給)。
- 気候の調節:森林や湿地などによる長期的な気候緩和(炭素吸収など)。
- 撹乱の調節:洪水・嵐・土砂崩れなど自然災害の緩和作用。
- 水の調節:河川の流量制御、地下水補給など水循環の調整。
- 水の供給:飲料水や灌漑用水としての供給機能。
- 土壌形成と浸食防止:土壌を生み出し保持するプロセスと、浸食を防ぐ働き。
- 栄養素循環:窒素やリンなどの循環により土壌の肥沃度を維持する機能。
- 花粉媒介:昆虫などによる受粉が農作物や野生植物の生産を支える。
- 生物的制御:天敵や病原体制御による害虫・病気の抑制。
- 生息地・保育機能:種の繁殖や多様性維持のための生息地提供。
- 廃棄物処理・浄化:微生物や植物による水質浄化や有害物質の分解。
- レクリエーション・文化的サービス:景観、精神的価値、観光・レジャー活動に関連するサービス。
経済的価値の評価と活用
自然資本や生態系サービスには市場価格で評価しにくい価値が多く含まれますが、環境経済学や生態系サービス評価では以下のような手法で価値化や計測が行われます。
- 市場価格法:明確な市場が存在する資源(木材・魚など)の価格を用いる。
- 代替費用法:サービスが失われたときに必要となる代替手段の費用(例:水道水の浄化装置)を推定する方法。
- 便益移転法:ある地域での評価結果を類似地域に適用する手法。
- 選好測定法(コンティンジェントバリュー等):人々の支払意思額をアンケート等で推定する方法。
こうした評価は、国や企業による自然資本会計(Natural Capital Accounting)や、環境影響評価、持続可能な経済政策の設計に活用されます。自然の価値を定量的に捉えることで、資源の過剰利用を抑え、保全投資や回復施策の費用対効果を判断しやすくなります。
注意点と限界
ただし、自然資本の評価にはいくつかの重要な注意点があります。
- 不確実性:生態系の機能や臨界点(しきい値)は完全には理解されておらず、評価には不確実性が伴います。
- 非代替性:ある生態系機能は代替がほぼ不可能であり、単純に金銭換算できない価値があります。
- 分配の問題:価値化が進んでも、利益や負担が誰に帰属するかは別問題です。
結論として、自然資本の概念は、自然の機能やサービスを経済や政策の枠組みで扱うための強力な道具です。しかし、評価結果を盲目的に用いるのではなく、生態学的知見や倫理的観点、地域の社会経済的事情を組み合わせて総合的に判断する必要があります。自然を単なる消耗品と見なさず、長期的な「資本」として管理することが、持続可能な社会の構築につながります。
関連ページ
質問と回答
Q: 自然資本とは何ですか?
A: 自然資本とは、地球の生物圏に存在する鉱物、植物、動物の形態を、酸素の生産手段、水フィルター、浸食防止、その他の生態系サービスの提供者として捉えたときの比喩です。
Q: 伝統的な経済分析では、自然資本はどのように捉えられているのでしょうか?
A: 伝統的な経済学による生産要素の分析では、自然資本は通常「土地」と理解され、本来の意味での「資本」とは異なるものである。
Q:人間は自然からどのような恩恵を受けているのか?
A:人間は自然から多くの恩恵を受けています。ロバート・コスタンザは、そのうちの17個を綿密に調べました。これらの利益は、「資本」の所有者が、その資本がより多くの商品を生産することによって得られる利益と似ているところがある。
Q: 人間以外のすべての生命に対する伝統的な見解に代わるものは何ですか?
A: 人間以外の生命に対する伝統的な考え方に代わるものとして、自然がリンゴの木からリンゴを、工場から自動車を生産していると見なす生態系評価へのアプローチがあります。
Q: 自然環境に関する人間の知識や理解は完全なものなのでしょうか?
A:いいえ、自然環境に関する人間の知識と理解は決して完全ではないので、自然資本が何を意味するのか、まだ正確に知ることはできません。
Q: ロバート・コスタンザは、人間が自然から受ける恩恵についてどのように考えていたのか?
A: ロバート・コスタンザは、人間が自然から受ける17種類の便益を綿密に調査しました。
百科事典を検索する