ネパーは古代エジプトで崇拝された穀物(穀類)の神で、特に小麦や大麦と深く結びついています。名前は古代エジプト語で Npr と表記され、現代には「ネペル」「ネパー」「ネプリ」などの表記が見られますが、語源や正確な意味については学説に差があり、単純に一語で訳しきれないことが多いです。いずれにせよネパーは食物の生産・保存・供給に関わる神であり、人々の栄養や生命維持の象徴とされました。なお本文中のトウモロコシは新世界原産の作物であり、古代エジプト時代には栽培されていなかった点に注意してください。
ネパーは通常は人間の姿で表されますが、穀物を示す特有の図像的要素を伴います。壁画や彫像では、服や衣裳に粒を示すような点模様が描かれ、これは穀粒(穀物の実)を表現したものと解釈されます。また、頭部に穂や束を載せた姿、小麦や大麦の穂を手に持つ姿などで表現されることが多く、短い巻布(キルト)を着けた若い男性として描かれる例が目立ちます。墓や神殿のレリーフでは収穫・脱穀・供物の場面と共に登場し、パンやビールの原料となる穀物の重要性を象徴しています。
信仰面では、ネパーには女性形の神格もあり、一般に「ネピット」(穀物の女神)と呼ばれます。母神あるいは養育者としての存在には蛇女神のレネヌテ(Renenutet)が深く関わり、文献や図像の中でネパーと結び付けられることが多いです。ネパーは季節的な作物の生長・熟成・枯死のサイクルと結びつけて信仰され、年ごとの収穫期に現れては姿を消す性格から、死と再生の観念を持つオシリスとの類似・結び付けがなされました。こうしたことから、ネパーは単なる作物の神にとどまらず、再生や循環というより広い宗教的意味を持ちました。
祭礼・儀礼では、収穫の時期に穀物やパン・ビールが供えられ、穀物の豊作を祈る儀式や感謝の供物が捧げられました。一般民衆の生活に直結する神であったため、都市部・農村部を問わず広く信仰され、家や村の小さな祭祀にも名を見せます。古代エジプトの宗教体系では、ネパーのような食料生産に関わる神々が人々の日常と密接に結び付いていたことがうかがえます。
まとめると、ネパーは穀物と食の繁栄を象徴する重要な神格であり、図像的には穀粒を示す点模様や穂を持つ若い男性として表現され、ネピットやレネヌテといった女神と関係づけられ、オシリス的な再生のイメージとも結び付けられていました。古代エジプトの農業・信仰・日常生活を理解するうえで欠かせない存在です。