Nosferatu eine Symphonie des Grauens(邦題:ノスフェラトゥ 恐怖のシンフォニー)は、F.W.ムルナウ監督による1922年のドイツのサイレントホラー映画です。原作はブラム・ストーカーの小説「ドラキュラ」です。

作品概要

本作は1921年に撮影され、ドイツでは1922年に初公開されました(アメリカでの公開は後年の1929年)。作品は丘の上の城に住むオルロック伯爵(主演:マックス・シュレック)という吸血鬼(ノスフェラトゥ)を中心に語られます。物語設定や登場人物の名称を小説『ドラキュラ』から翻案・変更しているものの、基本的なモチーフは原作に由来します。

あらすじ(概略)

若い不動産商の男が遠隔地の古城へ出向き、そこで不気味な伯爵と出会います。伯爵は主人公を通じて港町へ移り住み、やがて地元に疫病と死をもたらします。主人公の妻(または婚約者に相当する女性)は伯爵の吸血行為から町を救うため、自己犠牲的な行動をとる――という流れで、サスペンスと悲劇が交錯します。映画では小説の細部を省略・改変し、象徴的で視覚的に強い表現を重視しています。

制作と法的問題

本作はプラナ・フィルム(Prana Film)によって製作されましたが、原作者の遺族(ブラム・ストーカーの未亡人)からの許可を得ずに製作されたため、著作権侵害を巡る訴訟が起きました。裁判の結果、プラナ・フィルムは敗訴し、同社は解散に追い込まれ、当時のフィルムやネガの多くが破棄される命令が出されたと伝えられています。それにもかかわらず、複数のプリントや写しが残り、映画は後年に復活して広く上映されることになりました。

現在、この映画は一部の国(たとえばアメリカ)ではパブリックドメインとなっていますが、国・地域によって権利状況が異なり、たとえばドイツでは必ずしもパブリックドメインではありません。

映像表現と演技

ムルナウの演出はドイツ表現主義的な影の使い方、異形の身体表現、建築や風景を不穏さの源泉として用いる点が際立ちます。オルロック伯爵を演じたマックス・シュレックのメイクと所作は、ネズミのように細長い顔、長い爪、独特の歩き方などを通して強烈な異形性を打ち出し、観客に忘れがたい印象を残しました。船が港に到着する場面や、死を運ぶ黒い影、ネズミの群れが町へ侵入する描写など、視覚的なメタファーが随所に用いられています。

版の違い・上映時間・音楽

製作からの経緯や復元状況により、現存するプリントには長さやカットが異なる版が存在します。一般的な上映時間は版によっておおむね約83分から94分の間で変動します。また、サイレント映画であるため、当時は伴奏音楽が個々の上映で異なり、現代ではさまざまな映画音楽家が新たなスコアを作曲・演奏しています。過去の資料によれば当初の伴奏に関わる楽譜や記録も限定的で、現代の復元版ごとに異なる音楽体験が提供されます。

評価と影響

公開当初は商業的に成功を収められず、前述の法的問題が追い打ちをかけましたが、その後カルト的な人気を獲得し、20世紀を代表するホラー映画、表現主義映画の傑作として再評価されました。批評面でも高い評価を受けており、たとえば現代のレビュー集積サイトでは高評価を得ています。例として、Rotten Tomatoesでは「Certified Fresh」のラベルが付与され、46件のレビューをもとに98%の批評家が本作を「フレッシュ」と評価したとされています。さらに、2010年にEmpire誌の「世界の映画ベスト100」で21位にランクインするなど、その影響力は大きいです。

遺産と現代への影響

ノスフェラトゥは以後の吸血鬼像やホラー表現に多大な影響を与えました。文学的な「貴族的吸血鬼」像とは異なり、疫病や死の象徴としての吸血鬼像を強めた点、視覚的・象徴的に恐怖を組み立てる語り口は、多くの映画作家やアーティストに参照され続けています。また、マックス・シュレック自身やオルロック像はポピュラー文化における定着を見せ、後世の映画や舞台、美術作品に引用されることが多いです。

復元と鑑賞のポイント

  • 現存する版は状態や編集が異なるため、できるだけ評判の良い復元版(フィルム修復機関や実績あるディストリビュータによるもの)で鑑賞することをおすすめします。
  • 映像の細部(影、セット、身体表現)に注目すると、ムルナウの演出意図や表現主義的な美学がより深く味わえます。
  • サイレント映画としての上映では音楽が作品体験を大きく左右するため、どの音楽版で見るかも鑑賞の楽しみの一つです。

主要キャスト(代表)

  • マックス・シュレック — グラフ・オルロック(伯爵)
  • グスタフ・フォン・ヴァンゲンハイム — トーマス・ハッター(原作のジョナサン・ハーカーに相当)
  • グレタ・シュレーダー — エレン(原作のミナに相当)
  • アレクサンダー・グラナッハ — ノック

まとめると、『ノスフェラトゥ(1922)』は映像表現と不気味さを極限まで研ぎ澄ましたサイレントホラーの金字塔です。初期の商業的・法的困難を経てもなお、映画史上に残る作品として国際的な評価を受け続けています。鑑賞する際は、復元版と音楽次第で印象がかなり変わる点に注意しながら、その象徴的な映像言語を味わってください。