幾何学において平行ポスチュレートはユークリッド幾何学の公理の一つである。ユークリッドの『エレメント』の5番目のポスチュレートであることから、ユークリッドの5番目のポスチュレートとも呼ばれることがある。

もっと具体的には、古典的には次のように述べられることが多い:

線分を2本の直線で切ったとき、その直線が作る2つの内角の和が180°より小さい場合、その直線を長く伸ばせば、2つの直線は最終的に合流することになる

定義と同値な表現

平行ポスチュレート(ユークリッド第5公準)は上のような幾何的記述のほかに、同等とされるいくつかの簡潔な表現がある。代表的なものは次の通りで、他のユークリッド的公理系を仮定すれば互いに同値である:

  • Playfair の公理:与えられた直線とその外の点について、その点を通り与えられた直線と交わらない直線は高々一つしか存在しない。
  • 三角形の内角和が常に180°である、あるいは平行線に関する角の対応関係などを用いた形式。

歴史的経緯と独立性の発見

古代から18世紀までは、多くの数学者が第5公準は他の公理から証明できると考え、さまざまな試みがなされた。18〜19世紀にはヤーノシュ・ボヤイ、ニコライ・ロバチェフスキー(ロバチェフスキー幾何学)、およびカール・フリードリヒ・ガウスらが第5公準を仮定しない幾何学の研究を進め、ついに第5公準は他の公理からは導けない(独立である)ことが明らかになった。エウジェニオ・ベルトラミらの仕事により、非ユークリッド幾何がユークリッド幾何のモデルの中に一貫して構成できることが示され、相対的一貫性の理解が深まった。

非ユークリッド幾何学への影響

ユークリッドの公理にすべて従う幾何学の分野をユークリッド幾何学という。ユークリッドの公理にすべて従わない幾何学は、非ユークリッド幾何学と呼ばれる。

非ユークリッド幾何学は第5公準を否定することで生まれる主に二つのタイプがある:

  • 双曲(ハイパーボリック)幾何学:ある直線と外部点について、その点からその直線に交わらない直線(いわゆる「平行」)が無数に存在する。三角形の内角和は180°より小さく、面積は内角和の欠損分に比例する。代表的なモデルにポアンカレ円板モデル、半平面モデル、クラインモデルなどがある。
  • 楕円(あるいは球面)幾何学:どの二直線も交わる(平行線は存在しない)体系。球面上の大円は常に交わり、三角形の内角和は180°より大きくなる。

数学的・理論的な意味

  • 第5公準の有無は「平行の一意性」「三角形の内角和」「図形の相似性」など基本的性質を決定する。例えば、ユークリッド幾何学では相似な三角形が多数存在するが、双曲幾何では相似だが合同でない三角形の性質が異なる。
  • 第5公準が独立であることの発見は、幾何学が単一の絶対的な真理ではなく、公理系に依存する理論であることを示した。これが19世紀以降の数学の発展(抽象的公理化、代数的・位相的視点の導入)に大きく寄与した。
  • 現代では、第5公準の代わりに〈平行性〉についての公理を置いたり、距離や曲率を直接導入して幾何学を定式化するなど、さまざまな公理系が使われている。

まとめ

平行ポスチュレート(ユークリッド第5公準)は、ユークリッド幾何学の核心的公理の一つであり、その可換性や独立性の問題は数学史に大きな足跡を残した。第5公準を置くか否かによって生じる幾何学の性質は大きく異なり、その研究は双曲幾何学・楕円幾何学といった新しい理論の誕生に直接つながった。