ペルシャ語とウルドゥー語の比較 起源・文法・文字・文学の解説
ペルシャ語は、ウルドゥー語を含む大中東、中央アジア、南アジア地域の多くの近代言語の形成に影響を与えた。両者の関係は単なる語彙の借用にとどまらず、文法的・文学的慣習や文字体系にも深い影響を残している。
起源と歴史的背景
11世紀以降、ガズニ朝の支配やその後のデリー・スルターン朝、ムガル帝国の時代を通じて、中央アジアやイランから南アジアへ言語・文化が流入した。とくにガズニのターコ・ペルシャ人マフムードの征服以後、南アジアではチャガタイ語、アラビア語、ペルシャ語、および地域のインド系方言が混ざり合い、新たな通用語が形成されていった。その結果、やがて現代のウルドゥー語の基盤が築かれた。
ウルドゥー語は当初、軍隊や宮廷で用いられた言語であり、ペルシャ語やトルコ語を話すイスラム教徒の兵士と南アジアの先住民との接触から発展した。宮廷語としてのZaban-e-Ordu(「軍隊の言語」)が短縮されてウルドゥー語と呼ばれるようになった。土着の文献や口語では、長文でラシュカリまたはラシュカリ・ザバンと呼ばれることもあった。
文法的特徴の比較
- 系統:ウルドゥー語は形態的・歴史的にインド・アーリア語派に属する(パンジャブ語、グジャラート語、シンディ語などと近縁)。一方、ペルシャ語はイラン語群に属する。
- 語順:両言語とも基本語順はSOV(主語−目的語−動詞)で類似点が多いが、語彙層や助詞の使い方、敬語表現などで差が出る。
- 屈折と派生:ウルドゥーはインド・アーリア系の屈折体系(名詞の性・格、動詞の人称・時制など)を残しつつ、語彙や語形成にペルシャ化された要素を取り込んでいる。ペルシャ語は原則として性を持たない名詞体系で、助詞や前置詞的表現が発達している。
- ペルシャ特有の文法要素:内包語のezāfeや詩名や雅号としてのtakhallusの使用はウルドゥー文学に早期に取り入れられた(例は下記参照)。
文字と正書法
ウルドゥー語はペルシャ文字を基にしたアラビア系の文字で書かれることが一般的で、特にNasta'liq形式の草書体が詩的・公的文書で好まれる。国家や文学的影響により、ペルシャ文字とNasta'liqの採用が進み、インド語の表音系に対応するためにいくつかの追加文字や発音記号が導入された(たとえば、/ɖ/、/ɳ/ に対応するための拡張など)。一方、ヒンディー語は同じ語彙的基盤を多く共有しながらデーヴァナーガリーで書かれるため、書記体系が異なることが政治的・文化的区別を助長している。
語彙と語源
ウルドゥー語の語彙は大まかに三層に分けられる:
- 土着のインド・アーリア語起源の基本語(例:mān, gharなど)
- ペルシャ語・アラビア語由来の高語彙層(文学、学術、行政語彙:kitāb, dastān, adabなど)
- 英語やトルコ語など近代以降の借用語
このため日常会話ではヒンディー語と高い相互理解性を保つ一方、文語や詩歌になるとペルシャ語・アラビア語由来の語彙が多用され、ヒンディーとは語彙的に大きく離れる。
音韻(発音)の相違
- ウルドゥー語はインド系語の音声体系を基にしており、有気音・無気音の対立や鼻母音など地域的特徴を持つ。
- ペルシャ語の音声はよりシンプルな子音体系を持ち、語中の子音連続や母音調和など、ウルドゥーとは異なる発音パターンを示す。
文学的影響とジャンル
ペルシャ語の詩形(ガザル、カシダ、マルシア、ナズムなど)はウルドゥー文学に深く取り込まれ、両者の文芸伝統は融合した。ガザルなどの形式はウルドゥーで非常に発展し、多くの詩人がペルシャ語とウルドゥー語を行き来した。代表的な例として、アミール・クスロ(伝統的にアミール・クスロとも表記される)はペルシャ語とウルドゥー語を自在に操り、両言語圏で読まれてきた。
ウルドゥー詩では、takhallus(ペンネーム)をガザルのマター(最後の二行)で用いる慣習がある。また、ペルシャ語由来のはっきりした文法表現であるezāfe(所有や修飾を示す接続)も詩語や散文の高域で観察される。例:
- ペルシャ語の例:shahr-e-Tehran(「テヘランの町」) — ezāfeでshahrとTehranを結ぶ
- ウルドゥー詩句での類似表現:dil-e-nadaan(「愚かな心」)のように、詩的な表現でezāfe的構造が残る
現代での地位と使用
- パキスタン:ウルドゥー語は名目上の国語であり、公的行事や詩歌、教育の一部で重要な役割を果たす。パキスタンの国歌は多くのペルシャ語借用語や詩的慣用を含んでおり、ペルシャ語化された語彙・表現が顕著である。
- インド:ウルドゥー語は多文化都市やムスリム共同体で使用され、映画や音楽(特にボリウッドの歌詞)を通じて広く受容されている。行政や教育における地位は地域により差がある。
相互理解と現代の区別
口語レベルではウルドゥーとヒンディー(デーヴァナーガリー表記)は高い相互理解性を保つが、文語・文学レヴェルでは語彙層の違い(ペルシャ・アラビア語語彙の濃度)が明瞭な差を生む。社会的・宗教的要因も相まって、ウルドゥーは独自の文化的アイデンティティを獲得している。
まとめと参考例
要点:
- 系統上の違い:ウルドゥーはインド・アーリア語、ペルシャはイラン語に属する。
- 影響の方向:語彙・文学・書記体系などでペルシャ語がウルドゥー語に大きな影響を与えたが、文法的基盤はウルドゥーがインド系である点は変わらない。
- 文化融合:詩や宗教的テクストを通じて両言語は相互に影響し、独特のハイブリッド文化を形成した。
短い語例(ラテン転写):
- kitāb(کتاب) — ペルシャ/アラビア借用、ウルドゥーでも一般的(「本」)
- dil(دل) — 「心」、ペルシャ由来でウルドゥー語に定着
- ghar(घर / گھر) — 「家」、インド・アーリア語由来(ウルドゥー・ヒンディー共通)
以上の点から、ペルシャ語とウルドゥー語は歴史的に密接な関係を持ちつつも、それぞれ別個の言語的・文化的アイデンティティを維持している。文学や詩の領域では両者の境界が特に曖昧になり、今日でも相互作用は続いている。
質問と回答
Q:ウルドゥー語の形成に影響を与えた言語は何ですか?
A:ペルシア語がウルドゥー語の形成に影響を与えました。
Q:トルコ・ペルシャ系のガズニ家のマフムードがウルドゥー語の発展にどのような影響を与えたのか?
A:トルコ・ペルシャのマフムード・オブ・ガズニがガズナヴィー朝で南アジアを征服した後、トルコ語、アラビア語、ペルシャ語、方言の影響を受けた言語が形成され始め、それがやがてウルドゥー語と呼ばれるようになります。
Q:ザバーン・エ・オルドゥはもともと何と呼ばれていたのですか?
A:ザバーン=オルドゥー語は、もともと土着の文献や話し言葉では「ラシュカリ」「ラシュカリ・ザバーン」と呼ばれていました。
Q:ウルドゥー語の表記にはどんな文字が使われているのですか?
A:ウルドゥー語の表記にはペルシャ文字とNasta'liq形式の草書体が使用されています。
Q:ペルシャ文学とウルドゥー文学を行き来した有名な作家は誰ですか?
A: アミール・クスロは、ペルシャ文学とウルドゥー文学の間を行き来する有名な作家です。
Q: ウルドゥー文学に吸収されたペルシア語独特の形式にはどのようなものがありますか?
A: ウルドゥー文学に取り込まれたペルシア語特有の形式には、ガザル、カシーダ、マルシア、ナズムなどがあります。
Q: パキスタンの国歌はペルシャとのつながりをどのように反映しているのでしょうか?
A: パキスタンの国歌はペルシャ化されており、ペルシャとのつながりを反映しています。