ピンクアシガン(Anser brachyrhynchus)とは:生態・分布・特徴
ピンクアシガンの生態・分布・特徴を詳解。繁殖地から越冬地、識別ポイントや写真・保護情報まで一目でわかる完全ガイド。
ピンクアシガン(Anser brachyrhynchus)は、グリーンランド東部、アイスランド、スヴァールバルで繁殖するガンである。渡り鳥である。冬はヨーロッパ北西部、特にイギリス、オランダ、デンマーク西部で越冬する。
体長60〜75cmの中型のガチョウである。翼を広げると135〜170cmになる。体重は1.8〜3.4kg(4〜7.5ポンド)。嘴は短く、中央が鮮やかなピンク色で基部と先端が黒く、足はピンク色である。体は灰褐色で、頭と首はより濃い褐色、尻は白、尾は灰色で先端は広く白である。
特徴(識別ポイント)
- 嘴と足の色:嘴の中程が鮮やかなピンク色で、基部と先端が黒いのが本種の特徴。足もピンク色で、これが和名の由来となっている。
- 体型:中型のガンで、頭部と首はやや濃い褐色、体は灰褐色。尻や尾に白い部分が目立つ。
- 鳴き声:鼻にかかったような高めのホーン/ホンク音(しわがれ気味の「コォー」「クォー」)で、群れでよく鳴き交わす。
- 雌雄差:外見上の差は少なく、サイズで若干の差が出る程度。飛翔時の翼下面や飛行列での編隊行動が観察の手掛かりになる。
- 他種との違い:アネハヅル類やコキンメなどと比べて嘴が短くピンク色の帯があること、脚の色、尾部の白が識別点。アネハヅル(Anser anser)やコガン類と混同しやすいので、嘴の色と形、足の色を確認する。
生態・行動
ピンクアシガンは草食性で、繁殖地ではツンドラの湿地や湖沼周辺、越冬地では農耕地や牧草地、干潟で採食する。冬場は穀物や刈り取り後の残滓、草の葉や根を餌にすることが多く、夜間に農地で採食する個体群もある。家族群や非繁殖群で大きな群れを形成して渡りや越冬を行う。
繁殖期にはつがいで生活し、つがい同士は比較的強い絆を保つ。巣は地表に作られ、枯草や羽毛で覆われる。雛は孵化直後から歩行・採食が可能な「完全雛(プレコシャル)」で、親に導かれてすぐ餌場へ移動する。
繁殖
- 繁殖地:主に北極圏近くのグリーンランド東部、アイスランド、スヴァールバルで繁殖する。
- 繁殖様式:地表に巣を作り、1回の産卵で通常3〜6個の卵を産む。
- 抱卵期間:約24〜28日。抱卵は主に雌が行うが、雄も巣の付近で警戒する。
- 雛の成長:孵化後すぐに行動を開始し、飛翔できるまで約6〜7週(個体差あり)。親は雛を集団で保護し、捕食者から守る。
渡りと分布
春と秋に大規模な渡りを行い、繁殖地と越冬地を結ぶ定期的な移動をする。越冬地は主にヨーロッパ北西部で、特にイギリス、オランダ、デンマーク西部などが重要な越冬場所となる。個体群ごとに渡りの経路や越冬地がほぼ決まっており、群れごとの定着性が高い。
食性
主に植物食で、草、スゲ類、シダ、穀物の残渣などを食べる。繁殖地ではツンドラ植物を採食し、越冬地では農地で作物(穀物、イモ類など)を採ることも多い。採食は採餌場所に応じて日中・夜間のいずれにも行われる。
天敵と脅威
- 繁殖地ではキツネ類や大型の猛禽類が卵や雛を捕食することがある。
- 越冬地・渡りの途中では狩猟や農業被害対策による衝突、農薬・土地利用変化、気候変動による生息地の変化が脅威となる。
- 近年は保護対策や越冬地での資源豊富化により個体数が増加している地域もあるが、局地的な人間活動との軋轢が問題となる場合がある。
保全状況
国際自然保護連合(IUCN)の評価では比較的安定した個体群とされ、一般的には「軽度懸念(Least Concern)」に分類される地域が多い。ただし、地域によっては狩猟や農業との衝突、気候変動の影響で局所的な管理や保護が必要とされる。
観察のポイント
- 渡りの時期(春・秋)には大規模な群れが観察されやすい。
- 越冬地の農耕地や干潟、草地を朝夕に飛来・採食する姿が目撃されやすい。
- 識別では嘴のピンク色の帯と黒い先端・基部、ピンクの脚、尾部の白い部分を確認することが有効。
- 群れでの鳴き声や編隊飛行も観察の手掛かりになる。つがい行動や親子群を見つけると繁殖状況の推測に役立つ。
以上の点を踏まえると、ピンクアシガンは北極圏に繁殖地を持ち、ヨーロッパ北西部へ渡る中型のガンで、嘴と脚のピンク色が特徴的な身近な渡り鳥である。保全と人間活動との調整が今後も重要となる種である。

冬に餌を食べる群れの一部

アンサー・ブラキッシュ
エコロジー
氷河に近い崖の上に営巣することが多い。このため、哺乳類の捕食者(主にホッキョクギツネ)から保護される。アイスランドでは5月上旬から中旬、スヴァールバルでは5月下旬に3〜6個の卵を産む。抱卵は26〜27日間である。孵化後、雛鳥は親鳥と一緒に近くの湖に徒歩で移動する。約56日後に羽化する。南下する場合は9月中旬から10月上旬、北上する場合は4月中旬から5月上旬に移動する。
食事はほとんどベジタリアンである。夏には、陸上および水中のツンドラ植物を幅広く食べる。冬は主にナタネ、テンサイ、ジャガイモ、様々な草を食する。農作物への被害は大きい。
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