キアンシュウサウルスは、恐竜類の中では珍獣の一種である。学名は Qianzhousaurus sinensis で、長く突き出した吻(口先)を持つことから一般に「ピノキオ・レックス」と呼ばれます。標本は中国南部で発見され、2014年5月にNature Communications誌に記載されました。

外見上の大きな特徴は細長い吻部(鼻先)で、これに伴って歯も比較的細く鋭い点が挙げられます。これを典型的な大型のティラノサウルス類(例えばTyrannosaurus rex)と比較すると、T. rexが太く頑強な歯と強力で深い咬合を持って骨を砕くような捕食スタイルだったのに対し、キアンシュウサウルスは細長い歯と比較的軽い骨格から、より小型で素早い獲物(トカゲや小型哺乳類、羽毛を持つ小型の恐竜など)を狩る適応をしていたと考えられています。こうした形態差は、同じ大型捕食者グループ内での餌の取り方や生活様式が分化していたことを示唆します。

標本は江西省の赣州市(Ganzhou)付近の建設現場で作業員により発見され、地元の博物館に搬入されました。保存状態の良い頭骨が含まれていたため、吻の形や歯列、顎の構造が詳しく復元され、これが「長い口を持つティラノサウルス類」が実在したことを示す決定的な根拠の一つとなりました。体格は巨大なT. rexほどではなく、中型〜大型の範囲で、成体でおおむね数メートルから十数メートルに達する仲間よりやや小柄だったと推定されています。

今回の銭洲ザウルス(キアンシュウサウルス)の発見と、モンゴルから知られるアリオラムスのような長吻のティラノサウルス類の存在は、アジアにおいてこのタイプのティラノサウルスが広く分布していたことを示しています。系統解析ではこれらをまとめて一群(しばしば"アリオラミニ"等と呼ばれる)として扱う研究者もおり、アジアで独自に分化した系統であった可能性が指摘されています。これにより、白亜紀後期のユーラシア大陸では頑強な骨を砕くタイプと、細長い吻で素早い獲物を狙うタイプとが共存していた──つまり生態的ニッチの分割が進んでいた──と考えられるようになりました。

総じて、キアンシュウサウルスの発見は、ティラノサウルス類の多様性と進化を理解するうえで重要です。大型恐竜のイメージが一様でないこと、地域ごとに異なる形態学的適応が成立していたこと、そして白亜紀末までに多様な狩猟戦略が発達していたことを示す貴重な証拠となっています。