苧麻(ラミー)とは|Boehmeria niveaの定義・歴史・繊維利用ガイド
苧麻(ラミー)Boehmeria niveaの定義・歴史・繊維利用ガイド。古代から続く繊維作物の特徴・栽培・加工・用途を詳しく解説。
ラミー(Boehmeria nivea)は、東アジア原産のイラクサ科の顕花植物である。草本多年草で、高さ1〜2.5mになる。茎は直立し、葉は対生。苧麻は、茎の内側にある皮部(茎皮)から取れる「皮革繊維(bast fiber)」を主に利用する。
定義と学名
ラミー(苧麻)は学名をBoehmeria niveaといい、英語では「ramie」や「China grass」と呼ばれる。繊維作物としてのラミーは、茎の皮部に豊富な長繊維を含み、この繊維が布や糸に加工される。
形態的特徴
- 多年草で直立性。草丈は通常1〜2.5m。
- 葉は光沢があり、繊維は茎の皮部に束状に存在する。
- 開花は顕花(花が目に見える形)で、種子(種子繁殖)と挿し木(栄養繁殖)の両方で増やせる。
分布と栽培
原産は東アジアだが、温暖湿潤な環境を好むため世界の熱帯・亜熱帯地域でも栽培される。中国、日本、東南アジア、インド、ブラジルなどで栽培実績がある。繁殖は種子と挿し木が一般的で、排水の良い肥沃な土壌と適度な水分が好まれる。
- 収穫回数:通常年2〜3回だが、生育条件が良ければ最大6回程度収穫できる。
- 栽培期間:多年生のため植え替え頻度は低いが、維持管理(施肥、間引き、害虫対策)が重要。
歴史と文化的背景
苧麻は最も古い繊維作物の一つで、少なくとも6千年以上前から使用されてきたとされる。古代中国では繊維や網、衣類、さらには神事用の布地にも使われ、日本でも古くから苧(お)として、衣類や漁網、麻糸など様々な用途に利用されてきた。
繊維の性質
- 強度が高い:繊維は引張強度が高く、丈夫な布が得られる。
- 光沢がある:天然の光沢と白さが特徴で、見た目に優れる。
- 伸びが少なく、しわになりにくい反面、柔軟性はやや低い。
- 吸湿性は良好で、通気性のある素材として夏物衣料に向いている。
- 単独での紡績はやや難しく、綿や絹と混紡して使われることが多い。
繊維の取り出し(加工工程)
ラミーの繊維は茎の皮部に存在するため、取り出しにはいくつかの工程が必要で、特に「脱ガム(degumming)」が重要である。
- 収穫:茎を刈り取り、葉を落とす。
- 打撲・剥皮(脱皮、decortication):茎の外皮を取り、内側の皮部繊維を露出させる。
- 脱ガム(degumming):苧麻にはペクチンやラミニンなどの粘性物質(ガム)が多く含まれているため、繊維を分離して柔らかくする工程が必要。伝統的にはアルカリや沸騰処理、近年は酵素処理(生物学的脱ガム)や環境負荷の小さい方法が利用されることが増えている。
- 洗浄・漂白:不純物や色素を除去し、白く清浄な繊維に仕上げる。
- 乾燥・梳理・紡績:乾燥後に梳かして短繊維を取り除き、糸に紡ぐ。
用途
- 衣料:夏物シャツ、ブラウス、軽量ジャケットなど。綿や絹と混紡されることが多い。
- 家庭用テキスタイル:テーブルリネンやカーテンなど。
- 産業用途:ロープ、網、特殊な包装材やコンポジット材の補強繊維。
- 伝統的用途:祭礼服、漁網、麻糸など。
利点・課題
利点
- 高強度・高光沢で耐久性がある。
- 多年草で収穫回数が多く、単位面積あたりの繊維生産性が高い。
- 天然素材としてリサイクルや生分解の観点で有利。
課題
- 脱ガム工程で化学物質や大量の水が必要になり、加工時の環境負荷が問題になることがある。
- 繊維が短くてバラツキが出るため単独利用より混紡利用が多い。
- 栽培や加工の技術やコストが地域によって差があり、工業化・安定供給に課題が残る。
環境・持続可能性
ラミー自体は比較的少ない農薬で栽培できることが多いが、加工段階の脱ガムでの水利用や排水処理が環境面での課題となる。近年は酵素を用いた脱ガムや閉鎖循環型の処理、廃水処理の改善などによって環境負荷低減が進められている。また天然繊維としての生分解性や低炭素性を評価する動きもある。
品種と改良
栽培地域や用途に合わせて増収や繊維の長さ・品質を改良する試みが行われている。耐病性や機械収穫に適した品種改良、脱ガムに適した化学組成を持つ系統の選抜などが研究されている。
保管・取り扱いの注意
- 繊維や製品は湿気を避け、通気の良い場所で保管する。
- 洗濯時は縮みを防ぐため低い温度での洗濯や弱い洗剤を推奨する場合がある(製品の混紡率による)。
- アイロンは光沢を活かすため中温での使用が一般的。
まとめ
苧麻(ラミー)は古くから用いられてきた高強度で光沢のある天然繊維作物であり、現代でも衣料や産業資材として重要な可能性を持つ。栽培は比較的容易で収穫回数も多いが、繊維を取り出すための脱ガム工程が必要であり、そこが環境負荷やコストの主な課題となっている。脱ガム技術の改良や持続可能な加工方法の普及により、ラミーの利用は今後さらに拡大すると期待される。
生産者
苧麻の生産は中国がトップで、主に日本やヨーロッパに輸出しています。その他の生産国は、日本、台湾、フィリピン、ブラジルなどです。国際市場に出回るのは、生産された苧麻のごく一部にすぎません。日本、ドイツ、フランス、イギリスが主な輸入国であり、残りの供給量は国内で使用されています。
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