いて座A*(Sgr A*)とは:天の川銀河中心の超大質量ブラックホール解説
いて座A*(Sgr A*)の正体と観測史をわかりやすく解説。天の川銀河中心にある超大質量ブラックホールの最新知見を紹介。
いて座A* (Sgr A*) は、天の川の中心に位置する非常に明るい天文電波源です。観測上は、いて座の方向付近に見え、肉眼の星座表示ではややさそり座の方角にも近い領域にあります。
この電波源は、「いて座A」と呼ばれる複合的な構造の一部で、とくに中心にある非常に小さく強い電波源が「いて座A*」です。現在では、ほとんどの渦巻き銀河や楕円銀河の中心に見られるような、超巨大ブラックホール(より正確には超大質量ブラックホール)が存在すると考えられています。以下に、その性質と観測による根拠をわかりやすく解説します。
基本データ(代表値)
- 距離:地球から約2.6万光年(約8.2 kpc)程度
- 質量:中心にあるブラックホールの質量は約400万太陽質量(最新の測定では約4×10^6 M☉)
- 見え方:電波〜ミリ波で非常に目立つが、光学では視線方向の星間塵により隠されやすい
観測による証拠 — なぜブラックホールだと考えられるか
最も決定的な証拠は、銀河中心付近を周回する恒星の詳細な軌道観測です。とくに恒星S2(別名S0-2)は周期約16年で中心天体のまわりを公転しており、その軌道の形状と速度から中心に非常にコンパクトで重い質量があることが示されました。S2の近点通過時には重力による赤方偏移や一般相対性理論が予測する近地点の歳差(シュワルツシルト歳差)が観測され、ブラックホール模型と整合します。
電波・高解像度観測
いて座A*はラジオ波長で強い放射を示し、VLBI(超長基線電波干渉法)を用いることで非常に小さな角直径スケールまで空間構造を調べられます。これにより放射領域の大きさが事象の地平線スケールに近いことが示され、ブラックホール周辺の降着流(超高温のガスがブラックホールへ落ち込む流れ)が寄与していると考えられます。さらに、イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)はミリ波で高解像度画像を得ることにより、2022年にいて座A*の周辺領域の構造像を公開しました(M87*の画像と並ぶ重要な成果)。
明るさと活動性
興味深い点として、いて座A*はその質量に比べて非常に低い輝度(低いエディントン比)です。つまり大量の質量を持ちながら、比較的静かな「低活性」な核であり、これは降着が効率よく光に変換されない低効率降着流(RIAF:放射非効率的降着流)モデルで説明されます。ただし短時間での強度変動やフレアも観測されており、磁場やジェットに関連する一時的な過程が起きている可能性があります。
環境と銀河中心としての役割
いて座A*の周囲は高密度の恒星集団や分子雲、プラズマなどが存在する複雑な天体環境です。銀河中心ブラックホールは銀河の形成・進化に関わる重要な存在であり、過去の活動によって形成された大規模な構造(例:フェルミバブルスなど)との関連が研究されています。
まとめ — いて座A*の重要性
いて座A*は私たちの銀河の中心にある代表的な超大質量ブラックホール候補で、恒星の軌道、電波・ミリ波VLBI観測、一般相対性理論の効果観測など、様々な観測手法でその存在と性質が裏付けられています。今後も高解像度観測やマルチ波長観測により、降着流の物理やブラックホール周辺の強重力場での現象を直接調べる重要な対象であり続けます。

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