宇宙の形とは:平坦性・幾何学・観測可能宇宙の基礎
宇宙の形や平坦性、局所・大域幾何学と観測可能宇宙をわかりやすく解説。最新観測とモデル比較で核心に迫る。
宇宙の形状は、すべての用語がアインシュタイン相対性理論のものでなければならないので、日常的な用語で議論することはできません。したがって、宇宙の幾何学は、私たちの日常生活の中にある普通のユークリッド幾何学ではありません。一般相対性理論では、重力は空間と時間(時空)の曲がりとして表され、したがって「宇宙の形」を議論するとは、空間の曲率や時空全体の構造を議論することになります。
特殊相対性理論によれば、二つの異なる事象が同時に発生するかどうかは、その事象が空間的に分離されている場合には観測者によって異なることがあります。したがって「ある瞬間における宇宙の形」を単純に語るのはナイーブに聞こえます。しかし宇宙論では、観測上の自然な基準(宇宙マイクロ波背景放射:CMB の基準系)に従って「同時刻の面」(等時空面)を定め、そこにおける空間的幾何学(空間曲率)を議論します。特に、等方的・一様な宇宙を仮定するFLRW(フリードマン–ルメートル–ロバートソン–ウォーカー)模型では、全宇宙にわたる「宇宙時間」を使って空間の曲率の符号(正・零・負)を定義できます。
天体物理学者が行うことは、ある宇宙モデルが観測データと整合するかを検証することです。観測できる範囲は有限であり、観測可能な宇宙はモデルにかかわらず観測者を中心とした球状の体積(ボール)に相当します。もし観測可能な宇宙が全宇宙よりずっと小さいなら、私たちが検証できるのは宇宙の一部に過ぎず、全体のトポロジーや大域構造については不確定性が残ります。
宇宙の形を考える際は、概念的に次の二つを区別すると分かりやすいです。
- 局所幾何学
- 大域幾何学は、宇宙全体のトポロジーに関連するもので、測定が不可能な場合があります。
局所幾何学(空間曲率)
局所的な幾何学は、ある等時空面上での空間曲率の性質に関するものです。三次元空間を二次元の曲面にたとえると理解しやすく、
- 正の曲率(球面に似る): 空間は「閉じた」形をとる可能性があり、有限の体積を持つことがあります(例:三次元球面)。
- ゼロ曲率(平坦)(ユークリッド幾何): 長さや角度の法則が日常のユークリッド幾何と同じであり、無限に広がる可能性があります。だが平坦でも大域的に有限(多様体のトポロジーにより有限)となることがあり得ます。
- 負の曲率(双曲面に似る): 空間は開いており、曲率の影響で三角形の内角和が180度未満になるなどの性質を示します。
曲率の大きさは曲率半径で表され、観測可能な領域内での微小な偏差が現在の観測精度で検出されています。曲率はパラメータ Omega_k(または総密度パラメータ Omega_total)で定量化され、Omega_total = 1 が厳密な平坦宇宙に相当します。
大域幾何学(トポロジー)
大域幾何学は、空間がどのように結びついているか(多連結性、境界の有無、有限か無限か)を扱います。例として:
- 3次元トーラス(直方体の対向面を貼り合わせた空間)は、局所的には平坦だが大域的には有限で境界がない空間の典型です。
- 単純な球面トポロジーは有限で閉じていますが、曲率が正である必要があります。
大域トポロジーは観測では直接決定しにくく、もし宇宙が多重連結ならば遠方の天体が異なる方向に繰り返し見える(像の重複)などの特徴が現れます。CMB の「一致する円(matched circles)」探索や大規模構造の繰り返しパターン検出がトポロジーの手がかりになりますが、これまで明確な発見は得られていません。
観測可能な宇宙とその限界
「観測可能な宇宙」は観測者から光が到達したり到達しうる最大の領域を指します。どの場所にもその観測者を中心とした観測可能な球があり、地球から見た観測可能な宇宙の半径は現在の標準的計算で約46.5十億光年(約4.65×10^10光年、しばしば「約465億光年」と表現される)です。ただしこの数値は「共動距離(comoving distance)」に基づくものであり、宇宙膨張を考慮した結果です。観測はこの球の内部に限定されるため、全体の形(特に大域トポロジーや観測範囲の外の曲率)については不確定性が残ります。
観測による制約と現在の知見
宇宙の曲率を判定する主要な観測手法には次のものがあります。
- 宇宙マイクロ波背景放射(CMB)の角スケールにおける音響ピークの位置:最も強力な手法の一つで、平坦宇宙では第一ピークの角スケールが特定の値になります。
- バリオン音響振動(BAO):銀河の相関関数に残る標準長さを用いる方法。
- 型Ia超新星による距離測定:膨張履歴を辿ることで総密度を推定する。
- 重力レンズや大規模構造の統計解析:補助的に曲率やエネルギー成分を制約します。
これらの観測を組み合わせた結果、現在のデータは非常に高い精度で宇宙が平坦に近いことを示しています。たとえば、CMB 観測(WMAP、Planck など)と BAO、超新星観測の組み合わせにより、総密度パラメータは 1 に非常に近く、実効的に平坦であるとされています。NASAが「宇宙は0.4%の誤差しかないフラットな状態であることがわかった」と発表しています。
理論的背景と残る疑問
宇宙の平坦性を説明する有力な理論的枠組みとしてはインフレーション理論があります。初期の急速な指数的膨張は、空間の曲率を非常に小さく希薄化するため、現在観測される「ほぼ平坦」な宇宙を自然に与えます。しかし、インフレーションの詳細な実装や、宇宙が本当に無限か有限か、多様体としてどのようなトポロジーを持つかなど、未解決の問題は多く残されています。
まとめと今後の展望
- 「宇宙の形」は局所的な空間曲率(正・零・負)と大域的なトポロジー(有限・無限、多重連結など)という二重の側面を持つ概念です。
- 観測可能な宇宙は有限の球であり、我々が検証できるのはその内部に限られます。
- 現在の観測は極めて高精度で平坦に一致しており、FLRW 型の無限平坦モデルが有力ですが、大域構造や観測外の領域については決定的な結論は出ていません。
- 今後の観測(より高精度のCMB観測、広域赤方偏移サーベイ、重力波観測など)により、曲率の限界値の更なる改善やトポロジーの手がかりが得られる可能性があります。
以上を踏まえると、「宇宙の形」を語る際には、相対性理論に基づく厳密な定義、観測の有限性、そして理論的予測(例:インフレーション)を総合的に考慮する必要があります。

930億光年(280億パーセク)の3次元観測可能な宇宙の可視化。微細な粒が多数のスーパークラスターの集合体を表している。天の川の本拠地である乙女座スーパークラスターは中央にあるが、小さすぎて画像には写っていない。
質問と回答
Q:現在の観測では、宇宙の形はどうなっているのでしょうか?
A: 最近の測定によると、NASAは、0.4%の誤差で宇宙は平らであると述べています。
Q: 特殊相対性理論は、宇宙の形についての理解にどのような影響を与えるのでしょうか?
A: 同時性の相対性理論により、2つの異なる事象が空間的に離れている場合、その事象が同時に起こるかどうかを判断することはできません。つまり、空間上の異なる点が「同じ時刻にある」と言うことはできず、「ある時刻の宇宙の形」を語ることはできない。
Q: 宇宙物理学者が宇宙の形状を議論するとき、どのような幾何学を使うのでしょうか?
A: 宇宙物理学者は、宇宙を記述し予測するためのモデルを議論し検証する際に、アインシュタイン相対性理論を使用します。また、特に曲率に関係する局所幾何学とトポロジーに関係する大域幾何学も考慮します。
Q: 宇宙のすべての場所は、観測可能な宇宙の一部なのですか?
A: はい、宇宙のすべての場所は、地球を中心とした宇宙と重なることもあれば重ならないこともある、独自の観測可能な宇宙を持っています。
Q: 宇宙を記述・予測するためのモデルで、「平坦」とはどういう意味ですか?
A: FLRW(Friedmann-Lemaître-Robertson-Walker) と呼ばれるモデルの中で、「平坦」とは、観測データに最も適合するとされる無限平面モデルのことを指します。このモデルでは、空間はどこを見ても一様に見え、曲線や屈曲は存在しないのです。
Q: FLRWの無限平面モデル以外に、観測データに合うモデルはあるのでしょうか?
A: はい、FLRWの無限平面モデル以外にも、観測データに適合するモデルがあります。
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