シカスタ(Shikasta, 1979)— ドリス・レッシング作のSF叙事詩とカノープスシリーズ入門

ドリス・レッシングのSF叙事詩『シカスタ』(1979)—カノープスシリーズ入門。地球前史と宇宙的視点で描く論争作を読み解く。

著者: Leandro Alegsa

シカスタ(原題: Shikasta、フルタイトル: Re.コロニー化された惑星5、シカスタ)は1979年刊のSF小説で、イギリスのノーベル文学賞受賞者ドリス・レッシングが、5巻の「カノープス・イン・アルゴス」シリーズの第1作として執筆した作品です。初出は1979年10月にアルフレッド・A・クノップフ社(アメリカ)で、ジョナサン・ケープが1979年11月にイギリス版を刊行しました。作中「シカスタ」は、物語の舞台となる架空の惑星の名称でもあります。

作品の構成と語り口

シカスタは、カノープス(Canopus)から派遣された訪問者たちによる報告書、記録、断片的な資料、個人的な証言などが組み合わされた形式で語られます。副題には「ジョホール(ジョージ・シェルバン)使者(小学9年生)の訪問に関連する個人的・心理的・史料」および「終末の時代第87回」とあり、長期間にわたる歴史的経過を編年体的に追う一方で、断片的でモザイク状のナラティブが特徴です。複数の視点と文体が交差し、物語は単なる直線的プロットというよりも、資料集を読むような感覚を与えます。

あらすじ(概略)

物語は、三つの銀河的勢力──カノープス、シリウス、そして共通の敵であるプッティオラ──の影響下にある惑星シカスタの歴史を描きます。カノープスの訪問者たちは、この惑星で起こる出来事を報告として記録し、その記録は地球の歴史や前史と強く呼応します。小説は、物事がどのように悪化していったか、「破壊の世紀」(20世紀)や黙示録的な出来事(作品内では第三次世界大戦に相当する事件)を含む長い時間軸を横断して展開します。

主要テーマと影響

  • 宗教的・神話的モチーフ: 本作は旧約聖書の物語やイメージを多用し、聖書的な寓意や終末思想が随所に現れます(参照: 旧約聖書のモチーフ)。
  • スーフィズムと神秘思想: レッシングは1960年代半ば以降にスーフィズム(イスラム神秘主義)に強い関心を持ち、その精神的・神秘的要素が本作にも影響しています(参照: スーフィズム、精神的テーマ)。
  • 文明批評と歴史観: 西洋中心主義や帝国主義、破壊的な近代化の弊害、個人と大規模な歴史力学の関係が重要な論点として扱われます。
  • 自由意志と支配: 一部の読者・批評家は、本作が示す人間観を「自由意志の欠如」と批判しました。作中では人々の生活が銀河的勢力の影響下にあることが繰り返し示されます(参照: 自由意志がないという批判)。

文学的転換と受容

レッシングにとってこの作品は、以前のリアリズム的な作風から大きくSF的・寓話的世界観への転換を示すものでした。そのため従来の読者の中には不満を抱く者もいました。批評家の評価は分かれ、広い視野と壮大なスケールを評価する声がある一方で、難解・寓話的すぎる、あるいは悲観的と感じる批評もありました。中には「勇敢であり、世界を見据える偉大な作家の不穏な作品」と称する者もいました。

シリーズ内での位置づけ

シカスタはカノープス・イン・アルゴスシリーズの第1作として、以降の巻と密接に関連します。シリーズ第2作『ゾーン3、4、5の間の結婚』(1980年)では本作で断片的に触れられる「ゾーン」の主題がさらに扱われ、第3作シリウス実験(1980年)ではシリウス側の視点から同じ出来事が再構成されます。また、第4作惑星8(1982年)では、シカスタ関連の要素が別の角度から描かれ、シリーズ全体を通して一つの大きな神話的宇宙が構築されていきます。

読みどころ・注意点

  • 断片的な構成に慣れること: レッシングは断片的・編年体的な資料の寄せ集めで語る手法を用いるため、通常の小説的な流れを期待すると読みづらいことがあります。
  • 宗教・神秘主義的参照: 聖書やスーフィズムなど宗教的モチーフが多用されるため、そうした背景知識があると理解が深まります。
  • シリーズとして読む価値: 単独でも読めますが、同シリーズの他巻と合わせて読むと視点の補完や世界観の広がりをより享受できます。

最後に

シカスタはドリス・レッシングの作家としての転換点を示す重要作であり、壮大なスケールで文明、宗教、支配と自由の問題を問いかけます。好意的な評も厳しい評も含め、20世紀末の文学とSFの境界を揺さぶった作品として現在も議論されています。

質問と回答

Q:『シカスタ』のフルタイトルは何ですか?


A:『Shikasta』のフルタイトルは『Re: Colonised Planet 5, Shikasta」です。

Q:この小説は誰が書いたのですか?


A: イギリスのノーベル文学賞を受賞したドリス・レッシングが、5冊の「アルゴスのカノープス」シリーズの1冊目として書きました。

Q:この小説はいつ出版されたのですか?


A: 1979年10月にアルフレッド・A・クノップス社から米国で、1979年11月にジョナサン・ケープ社から英国で出版されました。

Q: レッシングがこの小説の中で探求したテーマは何ですか?


A: この小説では、先史時代、物事の悪化、「破壊の世紀」(20世紀)、そして黙示録(第三次世界大戦)を描いています。また、旧約聖書の物語やイメージを用い、スーフィズムの精神的・神秘的なテーマにも影響を受けています。

Q:リアリズムからSFへの転換を、読者はどのように受け止めたのでしょうか?


A:多くの読者は、リアリズムからSFへの変化に不満を持っていました。批評家の評価もさまざまで、広い人間観に感銘を受けた人もいれば、人間には自由意志がないことを示す憂鬱な作品だと嫌った人もいる。

Q: このシリーズには他にどんな本があるのですか?


A: このシリーズには他に、『ゾーン3、4、5の結婚』(1980年)、『シリアン実験』(1980年)、『惑星8の代表者の作り方』(1982年)などがあります。

Q:『シカスタ』とはどのような作品ですか?A:「シカスタ」は1979年のSF小説で、カノープス、シリウス、プチオラの3つの銀河帝国の影響下にある架空の惑星を描いたもので、カノープスの訪問者によって記録されたものです。


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