スピロヘータとは|構造・鞭毛・運動・生態・病原性を解説
スピロヘータ(またはスピロヘータ)とは、スピロヘータ門の微生物群(原核生物)を指します。多くは二重膜(内膜・外膜)を持つ細菌で、細長く螺旋(スパイラル)状に捻れた細胞形状をしているのが特徴です。以下では構造、鞭毛(運動機構)、生態、病原性、検出・治療法など、実務的に役立つポイントをわかりやすく解説します。
基本的な構造と特徴
- 細胞構造:スピロヘータは一般に二重膜を持つグラム陰性様の細菌で、外膜・細胞壁(薄いペプチドグリカン)・内膜という層構造を示します。ただし細胞表層の成分やLPSの存在は属によって異なります。
- 形状:細長く螺旋状に巻かれた細胞で、直径は通常0.1–0.5 µm程度、長さは数µmから場合によっては100 µm以上に達するものもあります。
- 軸糸(内在鞭毛):外膜と細胞質膜の間(ペリプラズム空間)に沿って鞭毛が存在し、これをまとめて「軸糸(axial filament、内在鞭毛)」と呼びます。軸糸の回転が細胞全体を螺旋状に回転させ、その結果として独特のコルクスクリュー様運動が生じます。
鞭毛と運動
スピロヘータは、外側に露出した通常の鞭毛ではなく、細菌のペリプラズム内にある内在鞭毛を用して運動します。軸糸の回転により細胞全体がねじれるように動き、粘性の高い環境や繊維性組織中でも効率よく移動できます。これは侵襲性や組織内走行(例:皮下組織や結合組織内の移動)に有利です。
生態・代謝
- 多くのスピロヘータは自由生活性で、淡水、海水、土壌、動物の腸管や昆虫の体内など多様な環境に生息します。
- 細胞の代謝型は属ごとに異なり、好気性、嫌気性、あるいは微好気性の種が存在します。培養が難しい種も多く、特殊な培地や条件を要します。
- 多くの種は共生的または< a href="74589">寄生性の生活様式を取るものがあり、動物や人で病気を起こす種も含まれます。
代表的な属と病原性
- Treponema:Treponema pallidum は梅毒の原因菌。血液や胎盤を介した全身性感染を起こし、臨床的に重要。
- Borrelia:Borrelia burgdorferi などはライム病の原因。節足動物(ダニ)を媒介として伝播し、皮膚・関節・神経系に症状を引き起こします。抗原変異(例:VlsE)による免疫回避が知られます。
- Leptospira:Leptospira interrogans はレプトスピラ症(人獣共通感染症)の病原体で、動物の尿を介して人に感染し、腎障害や肝障害を生じることがあります。
病原性の要因
- 外膜上のリポタンパク質や表面抗原が宿主免疫反応を誘導します。属によってはLPSが乏しく、代わりに多数のリポタンパク質を持つものがあります。
- 運動性(螺旋運動)により組織内部へ侵入・拡散しやすく、これが病態形成に寄与します。
- 一部(特にBorrelia)の種は抗原変異を行い、宿主免疫から逃れて慢性感染を引き起こします。
検出・診断
- 顕微鏡観察:暗視野顕微鏡や位相差顕微鏡で生菌を直接観察できます。トレポネーマなどは銀染色(Warthin–Starry染色)で組織切片中に可視化されることがあります。
- 血清学的検査:梅毒ではRPR/VDRLやFTA-ABS、ライム病ではELISAと確認的な抗体イムノブロットなどが用いられます。
- 分子検査:PCRにより遺伝子を検出することで高感度・高特異度の診断が可能。培養が困難な種の診断に有用です。
治療と予防
- 抗生物質:梅毒はペニシリンGが第一選択。ライム病やレプトスピラ症はドキシサイクリンやセフェム系・ペニシリン系などが用いられることが多いです。治療は病期や症状に応じて選択されます。
- 治療初期に炎症反応が急激に悪化するJarisch–Herxheimer反応が起こることがあるため、臨床での注意が必要です。
- 予防:媒介節足動物(ダニ)回避、動物排泄物に対する曝露管理、職業的予防などが重要です。
実務上のポイント
- 培養の難しさ:多くのスピロヘータは培養が難しいため、診断は顕微鏡、血清学、分子生物学的手法の組み合わせで行われます。
- 多様な生活様式:自然界では自由生活性~共生~病原性まで幅広く、環境や宿主により挙動が大きく変わります。
- 公衆衛生:一部は人獣共通感染症であり、公衆衛生的対策(動物管理・環境衛生・媒介制御)が重要です。
以上がスピロヘータの構造・鞭毛・運動・生態・病原性に関する概説です。より詳細な分類学的情報や各疾患の診療ガイドラインを参照することで、臨床・研究の現場での理解が深まります。


走査型電子顕微鏡によるLeptospira spirochaetesの観察
分類
スピロヘータは3つの科(Brachyspiraceae, Leptospiraceae, Spirochaetaceae)に分類される。これらはすべて単一の目、Spirochaetalesに入れられる。この門の中で病気を引き起こすものは以下の通りである。
- レプトスピラぞく
- ボレリア属、その一部がライム病を引き起こす
- 再発性発熱を引き起こすボレリア・リカレンタリス。
- 梅毒やヨーガの原因となるTreponema pallidumの亜種。
- 腸管スピロヘータ症の原因となるBrachyspira属菌。