スピッツァー宇宙望遠鏡とは 2003年打ち上げの赤外線観測衛星の概要と成果
スピッツァー宇宙望遠鏡は、2003年にNASAが宇宙へ打ち上げた望遠鏡です。大天文台計画の4番目の望遠鏡である(1番目はハッブル宇宙望遠鏡)。ハッブル宇宙望遠鏡は可視光を撮影し、スピッツァー宇宙望遠鏡は赤外線を撮影する。ハッブルとは異なり、スピッツァーは地球ではなく太陽の周りを回っている。
スピッツァー宇宙望遠鏡は、科学者ライマン・スピッツァーにちなんで命名された。2年半の寿命が予定されていましたが、実際には冷却材を使い果たす2009年まで持ちました。望遠鏡の中には、温度が高くても動く部品があり、今も現役で活躍しています。
打ち上げと軌道
スピッツァーは2003年8月に打ち上げられ、地球を周回するのではなく太陽の周りを公転する「地球追従(Earth‑trailing)」の軌道に投入されました。この軌道は地球から徐々に離れていくため、地球放射(地球からの赤外線放射)による熱雑音が少なく、冷却や観測に有利でした。一方で地球との距離が増すことで通信帯域や運用の制約が生じる点もありました。
搭載機器(主要な観測装置)
- IRAC(Infrared Array Camera):近赤外〜中赤外(約3–8µm帯)での高感度イメージング。冷却段階後も一部チャネル(3.6µmと4.5µm)は「ウォームミッション」でも稼働を続けました。
- IRS(Infrared Spectrograph):中赤外分光装置で、星間塵や分子のスペクトル解析、星形成領域や銀河の化学組成の研究に貢献しました。
- MIPS(Multiband Imaging Photometer for Spitzer):より長波長(24、70、160µmなど)での撮像・フォトメトリーを行い、冷たい塵や遠赤外放射の検出に強みがありました。
運用フェーズ:冷却期とウォームミッション
設計当初は約2年半の液体ヘリウム冷却による「クライオ」による高感度観測が計画されており、実際にクライオ運用は2009年に冷却材が枯渇して終了しました。しかし、冷却材喪失後もIRACの短波長チャネル(3.6µm、4.5µm)は低雑音で動作可能であったため、「ウォームミッション」として観測を継続。最終的にスピッツァーは2020年1月に正式に退役しました。こうした長期運用により、当初予定を大きく上回る科学成果を挙げました。
主な科学成果
- 惑星系形成の理解:原始惑星系円盤や塵の分布、塵の進化に関する詳細な観測で、惑星形成過程の物理・化学的条件が明らかになりました。
- 系外惑星(エキソプラネット)の直接検出と大気解析:スピッツァーは系外惑星の熱放射を直接検出し、昼夜温度差や大気の放射特性(熱放射のスペクトル)を調べることで大気物理の研究に貢献しました。
- 星形成と銀河進化:近傍銀河から高赤方偏移の銀河まで、赤外線での観測によって塵に隠れた星形成領域や遠方宇宙の銀河の性質を解明しました。
- 太陽系天体の研究:小惑星、準惑星、彗星などの赤外線観測により表面温度や組成、活動の解析が進みました。
- 褐色矮星や低温天体の発見:非常に低温の天体(褐色矮星や惑星質量天体)を赤外線で検出し、恒星形成の下限や系外低温天体の統計を拡充しました。
- データ遺産と後続研究への貢献:長年にわたる観測データはIPAC/IRSA等のアーカイブで公開され、現在でも新しい研究に利用されています。
他望遠鏡との連携と科学的意義
スピッツァーはハッブル、チャンドラ、ハーシェル、ALMA、ケプラーなど多くの地上・宇宙望遠鏡と連携し、マルチ波長での合成的解析を可能にしました。特に赤外線は塵に隠れた領域を透視する力があるため、星形成や原始惑星系円盤、遠方銀河の研究で不可欠な役割を果たしました。
まとめ(遺産)
スピッツァー宇宙望遠鏡は、2003年の打ち上げ以来、当初の設計寿命を大きく超えて運用され、赤外線天文学に多数の重要成果を残しました。クライオ期とウォーム期を通じて得られたデータは現在も活用されており、スピッツァーは21世紀前半の宇宙観測の基盤を築いた重要なミッションの一つといえます。
発見
スピッツァー宇宙望遠鏡は、非常に細かいところまで見ることができました。また、ビッグバンからわずか1億年後に誕生したとされる宇宙最初の星々も見ることができました。


2004年にスピッツァーが撮影したアンドロメダ銀河(M31)の写真。