サルバドール・ダリ『記憶の持続性』—1931年のシュルレアリスム代表作解説
ダリ『記憶の持続性』(1931)を背景・象徴・解釈とMoMA収蔵史で紐解く、初めてでも分かるシュルレアリスム解説。
記憶の持続性(スペイン語。La persistencia de la memoria; Catalan:La persistència de la memòria)は、画家サルバドール・ダリによる絵画である。1931年に制作された。彼の最も有名な絵画の一つである。
この絵は1932年に初公開された。1934年からニューヨーク近代美術館(MoMA)に所蔵されている。この絵は、批評家が「シュルレアリスム」と呼ぶものを代表するものです。認識しやすく、大衆文化によく使われる。
描写(構図と主要モチーフ)
絵の中心には溶けたような「柔らかい」懐中時計が幾つか配され、堅固な時間の像が流動化されたような印象を与えます。主なモチーフは次の通りです。
- 溶けた時計:枝や奇妙な有機体の上に垂れ下がるように描かれ、時間の相対性や記憶の流動性を象徴すると解釈されます。
- アリ:右下の懐中時計の表面に群がるアリは、腐敗や死、時間の侵食を示唆する記号としてしばしば読まれます。
- 不定形の人物像(中央の有機体):目やまつ毛のような表現を持つ、眠っているか変形した顔を想起させる形があり、しばしばダリ自身や夢の主体の象徴と見なされます。
- 背景の海と崖:遠景に見える海岸線や崖は、ダリの生まれ育ったカタルーニャ地方(ポルト・リガットなど)を想起させる風景です。
制作背景と解釈
ダリは1920年代末から1930年代にかけてシュルレアリスム運動に深く関わり、夢や無意識を視覚化する手法を追求しました。本作はその代表作であり、彼が提唱した「偏執的批判的方法(paranoiac-critical method)」の成果ともいえます。
解釈は多様で、以下のような観点がよく示されます:
- 時間や記憶の主観性:硬直した客観的時間の像が溶けることで、個人的体験や夢における時間のねじれを表す。
- 腐敗と死のモチーフ:アリや劣化する時計は、物質の朽ちや精神の不安定さを暗示する。
- 科学や哲学との関係:しばしばアインシュタインの相対性理論と結び付けて語られるが、ダリ自身は直接の科学的解釈を否定し、日常的な視覚体験(例えばチーズが溶ける様子)からイメージが生じたと述べています。
技法・寸法
素材は油彩・キャンバスで、サイズは比較的小型(おおよそ24 × 33 cm程度)ですが、緻密な描写と対照的な空間処理により強い存在感を放ちます。写実的な筆致で夢の光景を描き出す手法が特徴です。
受容と影響
発表以来、本作はシュルレアリスムの象徴的作品として広く認知され、ポスターや書籍、映画、広告などさまざまな大衆文化の場面で引用・模倣されてきました。美術史では20世紀美術を代表するイメージの一つとされ、ダリの知名度を決定づけた作品でもあります。
所蔵・展示について
作品は1934年以降、ニューヨーク近代美術館(MoMA)に所蔵されています。所蔵後は美術館の常設展示や特別展で公開されることが多く、海外の展覧会へ貸し出されることもあります。公開の有無や展示場所は美術館のスケジュールにより変動します。
補足として、ダリ自身の証言や当時の評論は複数の解釈を誘発しており、作品の意味は固定的ではなく見る者の経験や文脈によって変化します。そのため本作は美術史的な分析と個人的な読解の双方に開かれた作品です。
説明
この絵は、「ソフトウォッチ」と呼ばれる溶ける懐中時計を初めて搭載したものである。このソフトウォッチは、アルベルト・アインシュタインの相対性理論からヒントを得たという説もあった。ダリは、この時計は相対性理論ではなく、カマンベールチーズが太陽で溶けることにヒントを得たという。
絵の真ん中には人間がいます。左下のオレンジ色の時計は蟻に覆われている。ダリは死の象徴として、しばしば蟻を絵の中に登場させた。
記憶の固執」は、「リアリズム絵画の技法の正確さ」を用いている。実際、この絵は、人が起きているときというより、夢の中で見るようなものに見えます。
風景
右側の岩は、カタルーニャ州北東部にあるキャップ・デ・クレウス半島の先端と思われる。ダリの絵画の多くは、カタルーニャの風景に触発されて描かれたものである。絵の前景に奇妙な影があるが、これはパニ山にちなんだものである。
バージョン
ダリは『記憶の持続の崩壊』(1954年)でこの考えに立ち戻った。この絵は、フロリダ州セントピーターズバーグのダリ美術館にある。最初の《記憶の固執》は、ニューヨーク近代美術館にある。ダリは、リトグラフや柔らかい時計の彫刻も多く制作しています。
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