617 パトロクロス (pə-troe'-kləs, 英語発音: /pətroʊkləs/) は、共通の重心を持つ同じ大きさの2つの天体からなる連星小惑星である。木星と軌道を共有するトロイの木馬である。1906年(文献によっては1907年とされることもある)にアウグスト・コプフによって発見され、トロヤ群小惑星としては2番目に発見された。最近の証拠では、この天体は岩石質の小惑星ではなく、氷の彗星に近い成分を多く含むことが示唆されている。
概要と命名
名称はギリシャ神話の英雄パトロクロスに由来するが、現在は木星軌道の後方ラグランジュ点(通称「トロイ側」、L5)付近を公転している。初期の命名規則の例外により、ギリシャ側の人物名がトロイ側の小惑星に付けられた例の一つである。二重天体(連星)としての性質は、その後の高解像度観測で明らかになった。
軌道と物理的特徴
- 軌道: 木星とほぼ同じ軌道長半径を持ち、Jupiterの後方ラグランジュ点(L5)付近を周回する。
- 連星構成: 主衛星と伴星(通称 Patroclus と Menoetius)はほぼ同じ大きさで、お互いの周りを公転している。
- サイズ: 個々の直径はおよそ100–120 km程度と推定される(観測条件により幅がある)。
- 分離と公転周期: 互いの中心間距離は数百キロメートル規模、互いの公転周期は数日(観測では約4.3日程度と推定)である。
- 反射率・スペクトル: 表面は暗く低アルベドで、太陽光の反射が少ない。スペクトルは原始的で有機物や氷を含む可能性が示唆されている。
氷の彗星説(低密度と組成の証拠)
赤外線観測や熱放射の解析により、この連星系の全体質量とサイズから算出される平均密度は岩石質小惑星に比べてかなり低い値(およそ0.8 g/cm³ 程度のオーダー)を示している。これは多孔質であったり水や揮発性成分(氷)を多く含む内部構造を示唆し、「氷を多く含む小天体」や「彗星に由来する天体」という説を支持する重要な根拠となっている。こうした特性から、パトロクロス連星は外縁天体(太陽系外縁領域)で形成され、後に木星近傍へ移送・捕獲されたというシナリオが議論されている。
観測史と今後の探査
発見後も長年は通常の暗い小天体と考えられていたが、近年の地上大型望遠鏡や赤外線宇宙望遠鏡、適応光学を用いた観測によって二重性や低密度が明らかになった。将来の探査計画では、接近通過探査機からの直接観測が期待されており、近接での画像撮影や成分分析により内部構造や揮発性物質の有無がより明確にされる見込みである。
科学的意義
パトロクロスのようなトロイ連星小惑星は、太陽系初期の物質や起源、惑星系形成史を探る上で重要な手がかりを与える。特に氷を多く含む可能性が高い天体の存在は、木星近傍における小天体の起源や移動過程、外縁領域からの物質移送の証拠を検証するための貴重なサンプルとなる。