トーマス・クアストホフ:障害を乗り越えたドイツの名バスバリトン、リートの巨匠(1959年生)
トーマス・クアストホフ:障害を乗り越えたドイツの名バスバリトン。リートの巨匠としての生涯と代表演を詳しく紹介。
トーマス・クアストホフ(Thomas Quasthoff、1959年11月9日ドイツ・ヒルデスハイム生まれ)は、ドイツのバスバリトン歌手である。現在、最も優れた歌手の一人と考えられている。身体に障害があるため、音楽教育を受けることは容易でなかった。しかし、ドイツ歌曲(リート)を歌う世界最高の歌手の一人となり、また、バロック音楽、オペラ、ジャズなど幅広いスタイルを歌いこなす。
早年と教育
クアストホフは先天的な四肢の障害を抱えて生まれ、幼少期から音楽に強い興味を示しました。当時のいくつかの音楽学校や教育機関では、身体的制約を理由に正規の音楽教育を受けさせてもらえないこともありましたが、個別指導や独学、実践的な舞台経験を通じて歌唱技術を磨きました。こうした困難を乗り越えた経験は、彼の舞台表現や解釈に深みを与えました。
芸術的特徴とレパートリー
クアストホフは特にドイツ歌曲(リート)における解釈の深さで知られ、繊細な語り口と自然な表現力が高く評価されています。彼の声はバスバリトンの豊かな低音を持ちながら、語りかけるような明瞭な発音と柔軟なフレージングを特徴とします。主なレパートリーには以下が含まれます。
- シューベルトやシューマン、マーラーなどのドイツ・リート
- バロックのオラトリオや宗教曲(バッハなど)
- オペラの役柄(舞台出演も行った)
- ジャズやポピュラー曲とのクロスオーバー的な録音やライブ
共演と録音
クアストホフは世界的な指揮者、ピアニスト、室内楽奏者と多数共演し、特にピアニストとのデュオによるリート録音は高い評価を受けています。彼の録音は多数リリースされ、リート全集やコンセプト・アルバムを通じて広く知られています。
受賞と評価
舞台と録音活動を通じて、国際的な批評家や聴衆から高い評価を受け、各種の音楽賞や賞賛を獲得しました。批評家はしばしば彼の「言葉の明瞭さ」と「テキストへの深い理解」を称え、現代を代表するリート歌手の一人として位置づけています。
社会的役割と影響
クアストホフは自身の成功を通じて、障害を持つアーティストの可能性や音楽文化における多様性についての関心を喚起しました。教育やマスタークラス、講演などを通じて次世代の若い歌手たちに影響を与え続け、プロフェッショナルとしての技術だけでなく、表現者としての在り方を伝えています。
遺産
幅広いレパートリーと卓越した表現力により、クアストホフは現代の声楽界において重要な存在となりました。彼の録音と舞台は、リート解釈の基準の一つとして後世に残り、多くの歌手や聴衆に影響を与え続けています。

トーマス・クアストフ
ライフ
クワスホフはドイツのヒルデスハイムで生まれた。母親が妊娠中にサリドマイドという薬を飲んでいたため、トーマスは身体的なハンディキャップを持って生まれてきた。手はヒレ状で腕がなく、足も非常に短い。
クワストフさんは、音楽院で音楽を学びたかったのだが、「音大生は全員ピアノを弾かなければならない」という決まりがあり、それが許されなかった。しかし、クワストフさんは、音楽院で音楽を学びたかった。
クワストフ氏は、個人的に歌を勉強することにした。学校卒業後、大学へ進学し、法律を学んだ。3年間勉強した後、音楽の道に進むことにした。最初はラジオのアナウンサーとして働いていた。オラトリオを歌う経験もした。そして1988年、ミュンヘンのARD国際音楽コンクールで優勝する。ディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウをはじめ、多くの人が彼の歌に感銘を受けた。リート歌手として知られるようになった。1995年、初めてアメリカで歌う。2000年のグラミー賞(最優秀クラシック声楽賞)をはじめ、多くの賞を受賞した。メゾソプラノのアンネ・ゾフィー・フォン・オッターと共演したマーラーの《デーヴンダーホルン》がその対象である。クラウディオ・アバド指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団との共演であった。シューベルト、ブラームス、リストの歌曲や、バッハのカンタータの歌唱で賞を獲得した。
クァストホフはベルリンのハンス・アイスラー音楽学校で歌唱を教えている。ロンドンのバービカン・ホールでアーティスト・イン・レジデンスを務める。50歳の誕生日を記念して「Die Stimme」(声)というシリーズを制作した。2006年に出版された自伝のタイトルにもなっている。
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