分子シャペロン(タンパク質)とは — 折りたたみ・集合と主な機能を解説
分子シャペロンは、大きな分子(主にタンパク質)を正しく折りたたんだり、誤折りたたみを是正したり、展開(アンフォールディング)したりするのを助ける生体分子で、一般にはタンパク質として働きます。さらに、複数のサブユニットからなる高分子構造体の組み立て(アッセンブリー)や分解、細胞内輸送の補助など、多様な役割を持ちます。分子シャペロンは通常、補助の必要があるときに対象分子と一時的に結合し、正常に機能している成熟した構造体には恒常的には存在しません。
歴史的には、「シャペロン」と名付けられた最初のタンパク質群は、折りたたまれたヒストンとDNAからヌクレオソームが組み立てられる過程を補助するものでした。これらの組み立てシャペロンは特に核内で働き、折り畳まれたサブユニットを核小体やクロマチンといった大きな構造体へ正しく集める手助けをします。
主な機能
- 折りたたみ補助:新しく合成されたポリペプチド鎖が正しい三次元構造を取るのを助ける。
- 凝集防止:未折りたたみや部分的に折りたたまれたタンパク質が互いに結合して機能を失う凝集(アグリゲーション)を防ぐ。
- 再折りたたみ・修復:熱ショックやストレスで変性したタンパク質の再活性化を行う。
- 輸送補助:膜を越えて移動するタンパク質が輸送される間に折りたたみを抑制したり、正しい状態で輸送されるように保持する。
- 分解経路への導入:修復不可能なタンパク質をユビキチン–プロテアソーム系などの分解系へ導くことがある。
- 複合体の組み立て・解体:リボソーム、ヌクレオソーム、シグナル伝達複合体などの正しい組立てや動的解体を支援する。
分類と代表的なシャペロン
- ホールドアーゼ(holdase):ATPを使わずに、未折りたたみ状態のタンパク質を一時的に保持して凝集を防ぐ(例:小型HSPs)。
- フォルダーゼ(foldase):ATP依存的に働き、積極的にタンパク質を折りたたむ(例:Hsp70ファミリー、Hsp90)。
- シャペロニン(chaperonin):大型の筒状構造を作り、その内部で隔離して折りたたみを行う(例:GroEL/GroES(細菌のHsp60系))。
- トリガーファクターやプレフォールディン:リボソーム近傍で新生鎖の折りたたみを補助するもの。
作用機構のポイント
多くのシャペロンはATPの結合・加水分解をエネルギー源として構造変化を行い、クライアント(補助対象)タンパク質の結合・解放や折りたたみ過程を制御します。たとえば、Hsp70はATP結合状態で低い親和性、ADP結合状態で高い親和性を示してクライアントを抱え込み、ATP加水分解やコフォクターの作用でタイミングよく解放して折りたたみを促進します。シャペロニン(GroEL/GroES)のように、被覆されたチャンバ内で一つのタンパク質を隔離して折りたたむ仕組みもあります。
アンフィンセンのドグマとの関係
アンフィンセンのドグマは、一次配列(アミノ酸配列)が正しい三次元構造を決定するとする原理ですが、生体内では高分子濃度や翻訳速度、狭い空間などの条件により自己折りたたみだけでは誤折りたたみや凝集が起きやすくなります。そのためシャペロンは「情報自体を与える」のではなく、適切な環境やタイミングを与えて正しい折りたたみ経路へ導く補助因子として働きます。従ってシャペロンの存在はアンフィンセンの原理を否定するものではなく、細胞内という複雑な環境下で正しく機能させるための補助を提供するものです。
細胞内での局在と生理的意義
- 細胞質(リボソーム近傍で新生鎖を補助)
- 小胞体(分泌タンパク質の折りたたみ)
- ミトコンドリアや葉緑体(輸送後の折りたたみ補助)
- 核(ヌクレオソームの組み立てなど)
シャペロンはストレス応答(熱ショック応答)に重要で、熱や酸化ストレス時に発現が強く誘導され、細胞のタンパク質品質管理(proteostasis)を維持します。
疾患との関連
シャペロンの機能低下や過剰は、タンパク質凝集を伴う神経変性疾患(アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病など)やがん、代謝疾患に関係します。例えば、がん細胞ではHsp90ががん関連タンパク質の安定化を助けるため、Hsp90阻害剤が抗がん剤として研究・開発されています。
まとめ
分子シャペロンは、タンパク質の折りたたみ、凝集防止、複合体の組立て、分解の誘導など、細胞内でのタンパク質品質管理に不可欠な役割を果たします。種類や作用機構は多様で、ATP依存性のものからATP非依存のものまであり、細胞内各所で重要な生理学的機能や疾患メカニズムに関与しています。


バクテリアのシャペロン複合体の上面図
質問と回答
Q:分子シャペロンとは何ですか?
A:分子シャペロンとは、タンパク質の折り畳みを助けるタンパク質のことです。
Q: 分子シャペロンの主な役割は何ですか?
A: 分子シャペロンの主な役割は、タンパク質の折り畳みです。
Q: 分子シャペロンは高分子構造体の中で、その構造体の正常な機能時に発生するのですか?
A:いいえ、分子シャペロンは、高分子構造体の正常な機能時には存在しません。
Q: 分子シャペロンがタンパク質に対して行うことには、どのようなものがありますか?
A: 分子シャペロンは、哺乳類タンパク質の半分以上を折り畳み、タンパク質を展開し、タンパク質を組み立て、タンパク質を分解することができます。
Q: シャペロンと呼ばれるようになった最初のタンパク質は何ですか?
A: シャペロンと呼ばれる最初のタンパク質は、折り畳まれたヒストンとDNAからヌクレオソームが組み立てられるのを助ける。
Q: シャペロンの主な働きは何ですか?
A: シャペロンの主要な機能のひとつは、ポリペプチド鎖やサブユニットが互いにくっついて機能しない塊になるのを防ぐことです。
Q: 「ホルダーゼ」と「フォルダーゼ」の違いは何ですか?
A: 「ホルダーゼ」は凝集を止める働きをし、「フォルダーゼ」は自分では折り畳むことができないタンパク質を折り畳むのを助ける働きをします。