アーロン(アルバート)アレクサンドル(Aaron (Albert) Alexandre、ヘブライ語:אהרון אלכסנדר、1765/68年頃、フランケンフェルド(フランケン地方)生 - 1850年11月16日、ロンドン(イギリス)没)は、ユダヤ系ドイツ出身で、のちにフランスおよびイギリスでも活動した著名なチェスプレイヤー、作家である。
生涯と経歴
アレクサンドルはもともとラビとしての教育を受けたが、1793年にフランスに移住した。フランスではドイツ語教師や機械の発明家として働き、その後、本格的にチェスに専念するようになった。晩年はロンドンで過ごし、1850年に没するまで欧州各地で活動した。
主要著作と業績
アレクサンドルの代表作は、1837年刊行のEncyclopédie des échecs(『チェス百科』、パリ)で、当時知られていたほとんどのチェスのオープニングや定跡、戦術・戦略、定跡の解説を網羅した大著である。この百科事典的な著作は、チェス史上の重要な資料とみなされており、幅広い読者に利用された。
特に注目されるのは、彼がこの書で〈代数的な表記法〉を用いた点である。さらに、キャスリング(王の移動)を示す記号として0-0(キング側)や0-0-0(クイーン側)といった表記を採用したことは、棋譜表記の標準化・簡潔化に寄与したと評価されている。
もう一つの重要な著作は、1846年にパリで刊行された終盤・問題集の集成Collection des plus beaux Problèmes d'Echecsで、約2000題に及ぶチェス・パズル(駒余り・詰将棋に相当する西洋チェスの問題)を収めている。この全集は英語やドイツ語にも翻訳され、チェスの美学(ロンドン刊)や、ドイツ語訳のPraktische Sammlung bester Schachspiel-Probleme(ライプツィヒ刊)として広く流通した。
チェス界への影響と評価
どちらの著作も当時の標準的な参考書となり、アレクサンドルの技術的な造詣の深さと整理能力を伝えている。代数記法やキャスリングの記号など、棋譜表記に関する彼の採用・普及は、後のチェス文化における表記法の統一に寄与したとされる。
また、アレクサンドルは有名な自動装置「ターク」に関係したチェスプレイヤーの一人としても知られている。当時この種の興行や展示は話題を呼び、その内部で操作を担当した操作手(もしくはその周辺で働いた者)として名が挙がっている。
遺産
アレクサンドルの著作は、19世紀のチェス研究・問題作成・棋譜表記の発展に重要な役割を果たした。彼の作品は現在でも歴史的参考資料として研究者や愛好者に参照されており、チェス史における注目すべき人物の一人と位置づけられている。
(注)本記事では既存の史料に基づいて事実関係を整理しているが、生年や一部の活動年などについては史料により差異があるため、年代はおおよそのものとして表記している。

