チェスノーテーションとは、チェスの指し手(ムーブ)を記録するための体系です。対局中、各プレイヤーは自分と相手の手をノートに書き留めることが求められることが多く、特に公式大会や長時間戦(クラシック)の競技では記録が義務づけられています。p275ノーテーションには、着手番号、どの駒が動いたか、移動先のマス、キャプチャの有無、キャスリング、プロモーション、チェックやチェックメイトなどの付加情報が含まれます。位置だけを記録するための別の表記法も存在します。
主な記譜法の種類と違い
歴史的に、記譜法には大きく分けて記述式(descriptive notation)と代数記譜(algebraic notation)の二つがありました。現在は代数記譜が国際的に主流です。
- 記述式:各プレイヤーが自分の視点でマスを記述する方式です。英語圏で長く使われ、「1 P‑K4 P‑K4」(王のポーンを4マス進める)といった表現になります。歴史的な文献や古い棋譜で多く見られますが、表現が冗長になりやすく、多言語での統一が難しいため次第に廃れていきました。p229; 469; 848
- 代数記譜:盤上の各マスに固定のラベル(ファイル a〜h、ランク 1〜8)を与える方式です。1つのマスに1つのラベルしかないため明確で短く、国際的に使いやすいのが利点です。例えば「1. e4 e5」と書けば、白がe4、黒がe5と意味が伝わります。代数記譜にはさらに簡潔な「短縮代数(SAN:Standard Algebraic Notation)」や、駒の移動先を完全に書く「長い代数記譜(long algebraic)」などの形式があります。
記譜で使う主な記号とルール
- 駒の表記:K=キング、Q=クイーン、R=ルーク、B=ビショップ、N=ナイト。ポーンは通常記号を使わず、移動先のみを書く(例:e4)。
- キャプチャ:通常「x」を用いる(例:Rxa7 = ルークがa7で駒を取る)。
- キャスリング:小さい城側はO‑O、大きい城側はO‑O‑O(英語圏表記、アルファベットの大文字オー)。
- チェック:通常「+」、チェックメイト:通常「#」。
- プロモーション:ポーンが昇格したときは等号で示す(例:e8=Q)。
- 同じ種類の駒が同じマスに移動できる場合は出発ファイルまたは出発ランク(あるいは両方)を加えて示す(例:Nbd2、R1e3)。
付帯形式:PGN・FENなど
棋譜の保存や解析のため、代数記譜を用いた標準的なファイル形式がいくつかあります。
- PGN(Portable Game Notation):対局のメタデータ(対局者、場所、日付など)と移動履歴をテキストで保存する形式。棋譜の交換やデータベース作成に広く使われます。
- FEN(Forsyth‑Edwards Notation):盤面の局面のみを一行で表現する方式。局面を一意に記録・復元するのに便利です。
歴史的背景
かなり早い時期から手を記述する方法が存在しており、アラビア語圏(9世紀)の文献や、ヨーロッパ(13世紀)で手の記された写本が知られています。p275こうした初期の表記は「王のポーンは2軒進む」といった文章的で冗長なものが多く、これが現在でいう記述式に相当します。やがて盤上に固定ラベル(ファイルとランク)を与える代数方式が考案され、国際交流が増すにつれて代数記譜が主流になりました。20世紀後半からは代数記譜が世界的に普及し、英語圏でも1980年代ごろまでにほぼ置き換えられていきました。
実用上の注意
- 公式大会では着手の記録方法が規定されているため、大会の規則(大会要項やレーティングを管理する組織のルール)を確認してください。
- デジタルの棋譜共有ではPGNが標準的に使われるため、代数記譜に慣れておくと便利です。
- 古い棋譜を読む際は記述式に触れる機会があるため、記述式の対応表(例:K4=e4、QKt=クイーン側のナイト=g1など)を覚えておくと役立ちます。


